この時期、他でもクラウドファンディングの企画を走らせていたのですが、少し前から薄っすらと感じていた「時代の変化」が、徐々に確信へと変わっていきます。
「お客さんが、発信したがっている」
これまでのエンターテイメント(サービス)は、「発信者」と「受信者」が明確に分かれていました。これまでのお客さんは、できるだけ高品質の商品を、なるべく低価格で求めていたのですが、クラウドファンディングを繰り返しているうちに、どうやら最近は、そうとも言い切れない。
試しに、僕のイベントのチケットを、値段の安い順から「B席」「A席」「S席」「スタッフになれる権」で販売してみたところ、最も値段が高い「スタッフになれる権」が一番最初に売り切れました。その後、何度も試しましたが、何度やっても、やっぱり「スタッフになれる権」が一番最初に売り切れます。
どうやらお客さんは発信したがっている。しかも「お金を払ってまで」。理由は、まず間違いなくSNSでしょう。皆、「いいね」が欲しいし、「フォロワー数」を増やしたい。こうなってくると、「○○のイベントに行ってきました」というツイートよりも、「○○のイベントは私が作りました」というツイートが欲しくなってきます。
2014年頃。時代は、プロが作ったものをお客さんにお出しする「レストラン型」から、お客さんが食べたいものをお客さんが作る「BBQ型」へとジワジワと移動し始めていました。時代がプロに求めている仕事は、発信したがっているお客さんの横に寄り添う「サポート役」で、当時、この重大な変化に気がついている(受け止められている)プレイヤーはいませんでした。世間的には、まだまだプロの役割は「発信する人」で、「制作段階からお客さんを巻き込む」なんてもっての他。あいかわらず、「情報解禁日」を設け、「受信者」と「発信者」をキッチリと分けています。そして、そのことに誰も疑問を抱いていませんでした。このとき、僕は初めて思いました。
「あ。時代を取れるかも」
それから、自分が仕掛けている様々なエンタメを「BBQ型」へ作り直してみることにしました。「情報解禁日」をなくして、「著作権」を曖昧にして、講演会を自分で主催することを止め、クラウドファンディングのリターンで「西野亮廣講演会を開催できる権」を出しました。「お客さんが講演会を主催して、お客さんがお客さんを呼ぶ」という建て付けです。
事務作業ができる権利をお客さんに販売することはしませんが、「発信しがいがある仕事の参加券」は積極的に販売しました。東京タワーやエッフェル塔で開催する個展の設営スタッフなどです。誰もいない夜のエッフェル塔で、お客さん(オンラインサロンメンバー)と共に個展会場の設営ができたのは今もイイ思い出です。設営の途中に、酔っ払いがエッフェル塔の鉄骨を登り始めて、エッフェル塔は一時封鎖。100名近い警察が駆けつける騒ぎとなりました。搬入作業を2時間近く止められてしまった僕らは、エッフェル塔の展望室からパリの街を眺め、「この調子だと、明日は早朝から作業をしないと間に合わないね」と笑いました。楽しかったな。
それもこれも「制作段階からお客さんを巻き込む」と決めたから生まれたエンタメで、それらは全て、絵本『えんとつ町のプペル』のクラウドファンディングで学んだことを転用させたものばかり。絵本『えんとつ町のプペル』のクラウドファンディングは僕の表現活動の在り方を根本からひっくり返しました。
その後、「作品作りに携わりたい」「イベント運営に携わりたい」という声は止まないどころか、日に日に大きくなっていきました。その一方で、(特に年輩者から)「お客さんにお金を払わせて、お客さんに働かせるとは何事だ!」という批判も根強く残ります。「やりがい搾取だ」と言う人もいました。
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