ーー越川監督からは、あざみについての説明や注文はありましたか?
「脚本はある女性の日記を核に、越川監督ご自身や友人のエピソードが散りばめられています。実は私のものも入っていますが、どれかは秘密です(笑)。脚本の経緯を知っていたので、監督は私を信頼して任せてくれました。だからこそ、いろいろな方の人生が入り混じったあざみを死ぬ気でやらなきゃと覚悟したんだと思います」
ーー小篠さんからも監督にアイデアを出したそうですね。
「最初にいただいた脚本は絶望的なラストだったので、あざみを救ってあげて欲しいと監督にお願いしました。こんなにも痛々しくて、誰からも愛おしいとも思われず、共感もされないままだなんて悲しすぎます、と。あざみが堕ちていくだけの女性と描かれるのには、抵抗があったんです。監督には撮影直前まで調整していただき、このようなラストに落ち着きました」
ーー過去の忘れられない男、キタジマさん(斉藤陽一郎)。ほんの少し前の男、シン(嶺豪一)。これから始まる男、ノダくん(奥野瑛太)。3人の男の間で揺れるあざみさんを、どう演じ分けたのですか?
「大人の男性がバリバリ仕事に打ち込んでる姿に、あざみが吸い寄せられる気持ちは理解できます。そんな人から愛がもらえたらうれしいって。でも、あざみはほんの数滴よりもバケツ満杯にほしいタイプなので、キタジマさんに振り向いてもらえない彼女を演じるのはつらかった。シンとあざみは対等な感じで、一般的な現代のカップルという感じでした。シンはいつか素敵な女性と出会って、結婚して、幸せになってほしいです。ノダくんは、愛に飢えているあざみが初めて愛を与えることになる男性です。あざみも彼のまっすぐな気持ちに揺さぶられますが、私もノダくん役の奥野さんの熱演を受けて同じ気持ちになりました」
ーー撮影現場はいかがでしたか?
「荒れた海に向かうキタジマさんを引き留める壮絶な海のシーンは本当に大変でした。“海に入ったら、倒れるくらいの勢いでやるでしょ”と軽く言われて、“もちろんそうですよね”と応えたものの、波に揉みくちゃにされて膝はアザだらけ。お風呂のシーンで見える膝を確認してみてください(笑)。肉体的に厳しいシーンでしたが、あざみになるにはいいスタートになりました。それまでの彼女はキタジマさんの幻を追って生きてきたけれど、彼の気持ちに寄り添おうと海に入っていったら、あざみがこの人を忘れられない理由が胸にストンと降りてきたんです。脚本だけでは感じ取れなかったけれど、その後は納得してキタジマさんを忘れられないあざみを演じることができました。
だから、キタジマさんと別れる居酒屋のシーンは苦しくて……。脚本では、さよならを言ってすぐに店から立ち去ることになっていたのに、足が鉛のように重くなって動けないんです。涙はポロポロこぼれてくるし、セリフも出てこない。そこにキタジマさんがもう一度“じゃ”とたたみかけるじゃないですか。その瞬間、“この人は2回も私を出て行かせようとするんだ”と突き放された衝撃を受けて…。ノダくんが待ってるから早く店を出なくちゃ。でも、もう一度キタジマさんの腕の中に抱かれたい気持ちも消えない。心も体もあざみの情念に乗っ取られたような、不思議な経験でしたね」
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)