小説家・中山七里インタビュー シリアスな報道サスペンス執筆で「これのどこが“ほっこり”なんだって自分で思いました(笑)」

2020/10/15 06:00 配信

ドラマ

「夜がどれほど暗くても」の執筆テーマはまさかの“ほっこり”!


――続いて「夜がどれほど暗くても」は、週刊誌の副編集長が殺人事件の加害者家族となり、世間のバッシングに晒されながらも真実を突き止めようとする作品です。今年刊行されたばかりの本作が早くもドラマ化となりましたが、執筆するにあたってのきっかけや経緯はどのようなことだったのでしょうか。

中山:これは角川春樹事務所さんのオファーがあったんですけれども、春樹社長から直に「ほっこりしたものを書いてくれ」と言われたんですよ。僕は「ほっこりってどんなものだろうか?」と自問しましたけど、どう考えても皆さんがぱっと思いつくような「ほっこり」って僕には無理だなと思ったんですね(笑)。

その中で、僕に書ける「ほっこり」って何なのかと考えた時に、たぶん「対立する者同士が最終的に理解し合える」というところがぎりぎり「ほっこり」になるのかなと思ったんです。

なので、最初から被害者遺族、加害者家族という対立軸を作って、お互いがお互いを傷つけながらも最終的に「共感はできないけれど理解はしよう」というところに落とし込んだんです。でも、書いてから読み直した時には「これのどこがほっこりなんだ」って自分で思いましたけどね(笑)。

主人公へのバッシングの様子は「コロナウイルス感染者の方に対する風当たりとぴったり合っている」


【写真を見る】シリアスで胸が苦しくなるストーリー展開の「夜がどれほど暗くても」で、果たして“ほっこり”できるのか!?


――台本も拝見しましたが、ちょっと読み進めることが辛くなってしまうほどのストーリーでした。一方で、ドラマで描かれるような加害者とその家族に対する「私刑」は、現実でもSNS等で日々拡散されています。誰もがいつネットリンチの対象となるかわからない今の状況について、中山さんはどのように捉えていらっしゃいますか。

中山:今回コロナの災いが襲ってきたんですけど、(作品で描かれたバッシングの様子は)感染者の方に対する風当たりとぴったり合っているんですよね。倫理的に考えてみても、加害者家族も感染者も悪くないじゃないですか。なのに責められてしまうこの理不尽さ。

それはなぜ起きるのかというと、こういう閉塞した状況ではやっぱりみんなどこかに毒を吐きたいんですよね。そのはけ口にされちゃっているという現実があるんですよ。だから、本当は被害者なのに迫害されているという。

偶然にも世相と小説の内容が重なっちゃったきらいはあるんですが、実はいつの時代でもどこの世界でも同じことは繰り返されているんですよ。

なので改めて、人の気持ちの残酷さやその残酷さがもたらす闇を描きながらも、その闇の中にはやっぱり光るものがあって、「夜がどんなに暗くても朝が来る」というような願いを込めましたね。