吉岡秀隆、“人間の弱さ”演じきる名優が「エール」の物語に深みを与えた

2020/10/24 08:05 配信

ドラマ

「エール」第95回場面写真 (C)NHK


2020年度前期の“朝ドラ”こと連続テレビ小説「エール」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか)。第19週「鐘よ響け」は戦後編のはじまり。吉岡秀隆が主人公・裕一(窪田正孝)に重要な気付きを与える役を演じ、物語を大きく動かした。今回は名優・吉岡秀隆について、フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。(以下、一部ネタバレが含まれます)

限られた表現手段で役の“人生や哲学”表現


吉岡演じる永田武は長崎の医師。原爆のことを克明に綴った「長崎の鐘」が注目されていた。モデルは医学博士にして作家でもある永井隆。

自身が大怪我をしながら被爆者の治療に当たった人のために尽くす人物・永井をモデルにした永田が裕一に語る「落ちろ、落ちろ、どん底まで落ちろ」という言葉の意味とは……。

はからずも自分の曲が戦場へ若い者たちを送り出す役に立っていたことを自覚して罪悪感のあまり戦後、曲が作れなくなってしまった裕一。劇作家・池田二郎(北村有起哉)のラジオドラマ「鐘の鳴る丘」の主題歌「とんがり帽子」で、戦災孤児たちを応援する曲を作ったことで、再び曲を作れるようになったものの、完全復帰とはいえず、まだ罪悪感が払拭されていない。妻の音(二階堂ふみ)は心配そうに見守っている。

「長崎の鐘」の曲を作るためはるばる東京から会いに来た裕一に、永田は「自分の贖罪のために作ってほしくない」と言う。

戦争のときも裕一は誰かのためを思って曲を作って来た。これからも焦土から立ち上がる生き残った人たちのために曲を作ることこそ役目なのだ。

「希望をもって頑張る人に エールを送ってくれんですか」と永田は裕一に希望を託す。

この永田という役が吉岡秀隆であったことでドラマがぐっと引き締まった。

突然の登場なうえ、白血病で伏せっている設定なので、回想以外の出番は、じっとベッドに寝ているばかり(半身は起こしている)で、表現手段が限られている。それでも、裕一を見つめる潤んだ瞳に、これまでの永田の人生と、そこから学びを得てきた深い哲学のようなものを宿らせていた。

自分も大変なときに原爆の被害に遭った人たちを救おうと大奮闘する医師の役なので、吉岡の代表作「Dr.コトー診療所」(フジテレビ系)で離島にて医療活動を行う医師の役を思い起こした視聴者も多かったようだ。ちょうど今夏、再放送もやっていたので、それも功を奏したのではないだろうか。

短い出番で役の説得力をあげるには、こういう先入観を利用することも有効である。吉岡秀隆と医者のイメージになんの違和感もなく、すんなり世界に入っていけた。

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