井上真央主演の大河ドラマ「花燃ゆ」(NHK総合ほか)で、長州藩主・毛利敬親(北大路欣也)の正室・都美姫を演じる松坂慶子にインタビューを敢行。'73年の「国盗り物語」(NHK総合)以来、今作を含めて8作の大河に出演している彼女が、現在の大河に思うこととは。
――演じられている都美姫のキャラクターについて、どのように捉えていますか?
都美姫の晩年の写真を拝見すると、とても穏やかな顔をしているんですね。ずっと「姫」と呼ばれてきた人ですが、それにふさわしい佇まいだと感じました。一方で、四面楚歌(そか)の長州の姫なので、敬親公を支えて奥を一つにまとめて…という武士の妻らしい凛とした強さを併せ持った方だと思って演じています。
――実際に都美姫を演じてみて感じたことはありますか?
やはり、長州の国や民を背負う殿と一心同体という気持ちなので、普段の私よりも大きくならないといけないと思って、気合を入れて演じています。
NHKに入ってメークをして、衣装に着替えてかつらを着けていると、だんだんと気持ちが引き締まってきて、セットに入るころには自然と都美姫の風格みたいなものが出てきます。セットがどこかの文化財のように豪華で、本当に萩城の中でロケをしているような気持ちになるので、場の力というものもあるように思います。
――都美姫にとって、主人公・美和はどんな存在だと感じますか?
敬親公が一目置いていた吉田松陰の妹であり、久坂玄瑞の妻だとも知っていますからね。「あの久坂の妻」とか「この長州を危機に追いやった男の妻」と思うでしょうから、完全には心を許せない存在でしょう。
ただ、美和さんは真っすぐな人で、自分の思ったことは都美姫が相手だろうと言ってしまうので、びっくりさせられます。新しい風が吹いてきた、というか。都美姫も「いい時に奥に入ってくれた」とだんだん思うようになってくるのではないでしょうか。
――嫁しゅうとめの間柄になる銀姫との関係性はどう捉えていらっしゃいますか?
銀姫も思ったことをはっきりと言う人なので、(二人の争いは)陰湿ではないですよね。都美姫から見ると、銀姫にしてみても、また新しい風という感じがしますね。美和と同じでいい時に銀姫のような姫が来てくれたと、のちには思うのではないでしょうか。
――ここまでで印象に残っているシーンはありますか?
山口から萩に城移りをする時に、美和が女中を減らす役目を仰せ付かったお話ですね。美和のやり方がとても誠実で、方法は違ったけれど奥の者たちを思うという意味では自分と同じだったので、都美姫に「真心を尽くせば人の心は動く。至誠にございます」と吉田松陰の言葉を投げ掛けたあのシーンが印象に残っています。
――20代のころに初めての大河を経験されて現在60代。今作で8度目の出演となりますが、ご感想はいかがですか。
「国盗り物語」の時もあのスタジオだったかしら。私、先週スタジオの大きな扉を押して出る時に「あら、私42年間もこの扉を押しているんだわ」と思ったんです(笑)。「国盗り物語」の時がハタチでしたから、感慨深かったです。
あのころって1シーン1カットでしたし、今よりも照明の光も熱かったんです。'08年の「篤姫」の時もハイテクだとびっくりしたんですが、7年ぶりに来てみるとカメラもさらによくなっていて驚きました。
それに、その時々にすてきな役をさせていただいていますね。大河は本当に真剣勝負をさせてもらえる作品なので、すべて全力投球してやってきました。一生懸命に演じている自分が、それぞれの作品に残っているという感じです。
――今回の「花燃ゆ」はどのようにご覧になっていますか?
今の現代的な日本があるのは、この長州の大変な時代があったからだなと、演じているといっそう感じます。過去を振り返って知ることができる、という意味で大河ドラマはこれからもずっとあってほしいと思います。
――今回、藩主の正室という役ですが、所作や衣装で苦労はありますか?
久しぶりに着けたということもあって、かつらも帯も重いんですね。打ち掛けも着ると4kgはあると思うんですけど。時代劇は体力勝負だなとあらためて思いました。でも、これは城主の妻の権威を表した衣装なので、奥の人々もこれを見て「毛利のために頑張ろう」と思ったのでしょうね。
――すてきなご衣裳だと思いますが、“大河ドラマの衣装”に何か思い入れはありますか?
私、「篤姫」で老女(姫の身の回りの世話する女性)役だった時に「篤姫様の打ち掛けの刺しゅうはきれいだな」と思ってずっと眺めていたんです。そしたら今回、正室なので刺しゅうの打ち掛けを着られて、「うふっ」と喜んでいます(笑)。
今度は老女・園山役の銀粉蝶さんが「きれいね! シルクでしょ、私のと生地も違うのよ」と言ったりして、女同士で衣装のきれいさにため息をついています。でも本当に、いつ以来かの姫様を演じさせていただいているのが光栄で、すごくうれしいです。
――現場の雰囲気はいかがですか?
俳優さんでいうと毛利敬親役の北大路欣也さんが、本当に殿にしか見えないです。せりふも自由自在で、おかげで私も都美姫の気持ちになって演じられます。でも、北大路さんや内藤剛志さん(椋梨藤太役)と演じるシーンでは、やはりこの時代の武士は大変だなと感じます。
真央さんは本当に素晴らしい女優さんで、責任感もあるし、凛としていますね。大奥編が始まってからは、真央さんの顔つきが変わってきたんです。美和もいろいろ経験を積んで言うべきことは言い、耐えるべきは耐えというシーンが続いたので、おうちにいる時とは違う締まった顔になってきました。キャリアウーマンの顔だと思います。
――それでは最後に今後の見どころを教えてください。
文も美和と名を変えて、奥御殿で自分の人生を切り開いていくので、ここからが本当の「花燃ゆ」です。美和もこれから花開いていくので、華やかでワクワクしながら見守っています。一方で、長州藩は四面楚歌ですから、ダイナミックに話が展開していくのではないでしょうか。
ハイテクな機材で撮られた萩城がとてもきれいで、私たち自身も衣装や城の調度品を見るたびにきれいだなと思っています。視聴者の方にも、ぜひ奥御殿を堪能していただければと思います。
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