堺雅人が真田信繁(幸村)を演じる大河ドラマ「真田丸」(NHK総合ほか)。真田家はもちろん、それ以外の武将たちにも注目が集まっているが、その理由は有名武将をこれまでのイメージとは違ったキャラクターとして描いている点、そして、それを見事に演じ切る俳優たちの演技にある。
その中で今回注目したのは、上杉景勝(遠藤憲一)の側近として上杉家を支える直江兼続役の村上新悟。大河ドラマ「天地人」('09年NHK総合ほか)で妻夫木聡が演じた“愛”の武将とは別モノの、“クール”“冷徹”といった言葉の似合う兼続を演じている。ネット上で「兼続の声がいい!」と話題沸騰の村上に、「真田丸」の兼続像について語ってもらった。
――直江兼続役というオファーを受けたときはどんな感想を持ちましたか?
事務所の社長からメールが来たのですが、頭が真っ白になりました。うれしさというよりも「どうする!?」という方が大きかったです。有名な武将ですし、歴史に詳しくない若い人でもゲームで知ってたりするんですよね。「それを僕が!?」という気持ちでした。
――出演が決まってから兼続について調べましたか?
数多くの本を読んだり、山形県米沢市の兼続のお墓参りに行ったりもしました。兼続といえば、かぶとの「愛」の字。家臣と領民、敵まで愛した人物というイメージがあると思うのですが、演じるに当たって僕は「戦国の世の中で、愛だけで上杉を守れたか?」という疑問が浮かびました。
実際、こんな逸話もあるんです。ある時、兼続の家臣が五助という下人を無礼討ちしたのですが、実は無礼討ちされるほどの粗相はなかった。それで遺族が兼続に訴えたんです。兼続は慰謝料で解決しようとしたのですが、「金ではなく五助を返してください」とごねられた。
兼続は「では、そなたらは五助を引き取る使いとして、閻魔(えんま)大王の元に行ってもらおう」と言って、遺族を切り捨てたそうです。それから、閻魔大王に向けて「使いを出したから五助を返してくれ」という立て札を書いて河原に掲げた。その話を読んで、やはり兼続は義と愛だけでなく、冷徹さも持った武将だと納得しました。
――今回の兼続は、その冷徹さを前面に出しているということですか?
そうですね。三谷(幸喜)さんの台本からもそれを感じましたし、妻夫木さんがやった兼続とは全然違うと思います。始めは視聴者の方も「イメージと違う」と感じるかもしれませんが、のちのち「こういう兼続像なのか」と納得してもらえると思います。
特に印象にあるのが、一度上杉家を裏切った信繁が、再びやって来たときの兼続のせりふ。景勝に対して「(信繁を)切り捨てましょう」と言うのですが、スパッと割り切っていくタイプなんだなと思うと同時に、そうでないと戦国を生き残れなかったのだろうなと感じました。
――そんな兼続に共感するところはありますか?
正直、ずばずば物事を切っていくところは「格好いい」と感じました。兼続といえば「愛」ですが、当時はまだ「愛」という漢字に「LOVE」の意味はなかったと言いますし、やっぱり義と愛だけの人ではなかったと思いますね。かぶとも、僕は「仏教の信仰対象である“愛染明王”から取った」という説を信じているので(笑)。
――兼続を演じるに当たって気を付けたことはありますか?
姿勢と視線は気を付けています。例えば、信繁と景勝が話しているシーンでは、話している信繁を見ながらも、お館さま(景勝)がまた難題を引き受けないか心配なので、そちらに意識を向けている…という芝居をしました。
――第5話の初登場後からネット上では村上さんの「声がいい!」と話題になっていました。兼続として声の出し方で意識していることはありますか?
美声かどうかは自分で聴いても分からないです(笑)。ただ、声が響き過ぎてしまうので苦労しています。マイクに乗せるにはどのくらいの音量がいいのか、というのは常に悩みます。そのあたり、堺さんと遠藤さんはうまいですね。自分はまだ声を使いきれていないと感じます。
――上杉勢の撮影の雰囲気はいかがですか?
上杉は人が少ないんですよ。途中から信繁が上杉家に人質として来るので、堺さんとも一緒にいるんですけど、それまでは遠藤さんと「真田家はにぎやかでいいなぁ」と話していたくらいです。第8回で春日信達(前川泰之)という家臣が出てきましたが、登場する数少ない上杉家の家臣だったのに、僕、彼のこと張り付けにしていますし(笑)。
――堺さんとの共演の印象はいかがですか?
今、信繁を演じている堺さんは10代にしか見えないです。実際にそうなのか役に入り込んでいるのかは分かりませんが、本当に好奇心旺盛な若者の顔をしていて、相手の懐に入るのが上手なところは、まさに信繁ですね。
――兼続自身は信繁をどう見ているんでしょうか?
兼続も信繁を「かわいいやつ」と思って見ていると思うのですが、絶対態度には出さないですね。3月13日(日)放送では、信繁がある策略を立てて、真田家と上杉家が戦っている芝居をするという場面があって、信繁は負けた振りをして逃げていくんです。兼続は、その後ろ姿を見ながら信繁の才能を愛でているはずですが、僕自身が必死に隠しているので、映像では“何を考えている分からないやつ”になっていると思います。
――実は、今回で4年連続大河ドラマに出演を果たしているんですよね。連続出演の要因は何だと思いますか?
4年連続で使っていただいているのは、本当にありがたいと思います。要因というのは自分では分かりませんが、昨年、所属していた無名塾を辞めたことは俳優としての転機になりました。長い間お世話になったのですが、師匠(仲代達矢)に「一役者・村上新悟」として、勝負を挑めるようになることが恩返しだと思って。そこで気持ちの切り替えはありましたね。
――今後の物語で兼続が果たす役割はどんなところにあると思いますか?
主人公である信繁との絡みはまだ少ないですが、信繁は兼続のことを嫌ってはいないと思います。信繁は義を貫く景勝が大好きですが、その陰で上杉のために懸命に景勝をコントロールしている兼続のことも見ている。そして、そういう人もいるのだと感じている。一見、すごく冷徹な兼続ですが、信繁はそんな兼続からも吸収して成長していくのだと思います。
あとは、やはり関ヶ原の戦いを引き起こした“直江状”を書く人物なので、歴史の中で重要な局面を作り出した人ということになります。三谷さんが書いてくれるならですが、ぜひ直江状は「自分の声」で読みたいです。
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