中井貴一、時任三郎が語るこれからの“テレビ”の在り方

2016/10/07 07:00 配信

映画

「グッドモーニングショー」で19年振りの共演を果たした中井貴一と時任三郎

テレビのワイドショーを題材にした映画「グッドモーニングショー」。主演を務めた中井貴一は番組のメインキャスター、時任三郎は彼と同期のプロデューサーを演じた。

――中井さんはキャスター役に初挑戦ということですが、そもそもワイドショーはご覧になっていましたか? そして、その印象は?

中井:朝、出掛ける準備をしているときに、ワイドショーをつけておくことはありましたが、この作品に参加してから印象がガラリと変わりましたね。僕たち俳優が番組の宣伝などで出演させていただくときは、すでに準備が整った状態で迎え入れていただくので、まさかあれほど大変だとは。どこかでワイドショーは気楽なものという思いがありましたが、作り手は大変なんですよね。

――時任さんはいかがでしょうか?

時任:リアルな立場では、僕たちは取材される側なので、若いころに追いかけられたりしたときには「このヤロー!」って思ってました(笑)。取材を受けても肝心なところが編集でカットされていたりしたこともあるので、それはまあ、複雑なところですよね。でも、僕も貴一と同じようにこの作品を通して、本当に大変な仕事なんだなと感じました。とくに(自身が演じた)石山はプロデューサーという立場ゆえに、上司から視聴率を上げろとあおられたりもしているんだろうなと思うと、彼らにもいろんな苦労があるんだなと思いました。

――監督を務められたのは、「踊る大捜査線」シリーズの脚本家としても知られる君塚良一氏。今回は君塚さんのオリジナル脚本ですが、君塚さんからそれぞれのキャラクターの履歴書を渡されたとか?

中井:いただきました。どういう学校を卒業して、なぜキャスターになろうと思ったのかなど、(自身が演じた)澄田という男の人生が細かく書かれていました。今回の役作りとして実際にワイドショーの現場を見学させていただいたことも大きかったです。キャスターやアナウンサーの方がアナウンス室に入ったらまず何をするのか、メイクをしているとき、衣装を選んでいるときに何を考えているのかなどを、とにかく細かい部分まで聞いて、まるでストーカーのようなことをしていました(笑)。

時任:君塚さんからいただいた石山の履歴書によると、石山は小学校6年生のときに全国読書感想文コンクールで優勝しているらしいです(笑)。それこそテレビ局に入った直後は硬派な番組をやっていたみたいですが、会社にいるうちに社内でのポジショニングも変わってきますからね。なので、僕も履歴書は自分の中に置いておく感じで、何か突発的なことが起きたときにどう対処するのかなど、現場で感じたことを重視して演じました。でも、今回のように役に関する履歴書みたいなものがあると、助かることは助かりますね。

――中井さんと時任さんといえば、今では名作と言われているドラマ「ふぞろいの林檎たち」(’83年~’97年TBS系)。今回、19年ぶりの共演だそうですね。

中井:全然久しぶりな感じがしなかったです。若いころの経験って、強烈なんですよね。とくに「ふぞろいの林檎たち」の現場は壮絶だったので、時任さんは戦友みたいに感じています。

時任:同じ釜の飯を食ったじゃないけど、何年も会ってなくても、つい昨日会ってたかのような感じがするよね。当時は今のドラマの作り方と違って、全部のシーンでリハーサルがあって、そこで相当鍛えられましたからね(笑)。

中井:鍛えられるというよりも、もはやしごきに近かった(笑)。

時任:それをクリアするために電話でセリフの読み合わせをしたり、実際に会って読み合わせをしたりして。

中井:しかも今と違ってケータイがない時代だから、“家電”でね。今考えると、リハーサルのリハーサルなんて、ちょっとすごいよね(笑)。

――映画で描かれるのは、番組の打ち切りを伝えられ、さらには立てこもり事件に巻き込まれてしまう澄田の人生最悪の1日。お二人は澄田のように人生最悪のピンチを経験されたことはありますか?

時任:この間、マチュピチュ遺跡に行ったときに、飛行機に乗り遅れたことぐらいかな。

中井:いやいや、パラグライダーで墜落したことがあったじゃないですか。あれのほうがよっぽど人生最大のピンチだと思うけど…(笑)。

時任:上空100mから落ちたんですよね。何かがちょっとズレていたら大ケガになっていた可能性があったけど、幸いにも軽傷で済んで。でも、僕らの仕事はプロジェクトで動いているから、俳優がケガをしたら、周りにとんでもない迷惑をかけてしまうので、あれ以来、おとなしくしています(笑)。

中井:僕の場合、自分の人生を振り返ってみると、チャンスよりもピンチの方が確実に多かった気がします。俳優という職業柄、作品の1つ1つが勝負になるというのもありますが、やっているときは必死でも、完成した作品を観ると、自分のできてなさ加減に失望しちゃうんですよね。だから、どんどん自分が嫌いになる(笑)。

時任:たしかにそれはありますね。でも、今回は俺はあまり出てないから、中井貴一、すごいなと思いながら素直に楽しめました(笑)。

――劇中にも“視聴率戦争”という言葉が出てきますが、お二人は今のテレビをどのように見ていらっしゃいますか?

時任:ワイドショーのような情報番組と報道番組に限っていえば、どちらも世の中で起こっていることを伝えるもので、根本は同じ。だけど、報道番組が事実のみを伝えるものだとすれば、情報番組は説明のいかんによっては与える印象がガラリと変わってきますよね。それが偏向報道につながる危険性もあるので、取材する側もされる側もモラルをもってやっていかないといけないなと思っています。

中井:昔はテレビが一家に一台しかなく、親がチャンネル権を持ってましたよね。でも、それが子供である若い世代に移って、さらにそこから若い世代はテレビではなくインターネットに流れてしまった。だから、実際に今、テレビを楽しみに観ているのは、おじいちゃん、おばあちゃんの世代だと思うんです。それなのに、テレビをつけると、どこも若い世代に合わせた番組ばかり。そういう意味では、もう少し大人向けの番組を増やすとか、テレビのあり方を考え直す時期に来ているんじゃないかと思いますね。

馬場英美