ディズニー＆ピクサー最新作「マイ・エレメント」が、8月4日に劇場公開された。同作は、「もしも火・水・土・風のエレメントの世界があったら、どんな性格で、どんな暮らしをしているのか、どうやって触れ合うことができるのか？」という史上最もチャレンジングな“もしもの世界”を描く物語。個性的なエレメントたちが暮らす「エレメント・シティ」には、“違うエレメントと関われない”という大切なルールがある。それもあって性格も特性も正反対な“火”のエンバーと“水”のウェイドが出会い、共に時間を過ごす中で、少しずつ心を通わせるが、どれだけ仲を深めても触れ合うことができない。しかし、2人の心が触れ合った時、ピクサー史上最も“ロマンティックな奇跡”が起こる。今回、音楽をはじめ幅広いエンタメに精通するフリージャーナリスト・原田和典氏が本作を鑑賞し、作品の見どころを独自の視点で紹介する。(以下、多少のネタバレを含みます)
前向きな、夢と希望を持ったまま突進していくストーリー
筆者は擬人化が大好き。よって物に目や手足が付いて時にしゃべったりする「ゆるキャラ」たちにも大いに楽しませてもらっているのだが、それにしても今回の「マイ・エレメント」には驚いた。いわゆる地球を構成する要素(エレメント)、「火」「地」「風」「水」を擬人化し、手足を付け、しゃべらせてしまうとは。しかもその描写が、ちっとも奇をてらった感じではない。
丁寧に描かれるエピソードの数々は、見た人の人生経験から数えきれないほどの「あるある」的な共感を引き出すに違いないし、ひたすら前向きな、あふれんばかりの夢と希望を持ったまま突進していくストーリー展開は、同じ人間というカテゴリー同士の齟齬なんて、ここに登場する主人公のエンバー(日本版声優：川口春奈)とウェイド(日本版声優：玉森裕太)の体質的な差異に比べたら本当にささいなものなのだ、ということも思い知らせてくれる。なんと言ってもエンバーは「火」であり、ウェイドは「水」なのだ。とあるきっかけによってどんどん引かれていく2人だが、近づけば近づくほど蒸発するということを、互いに分かってはいる。
「エレメント・シティ」が美しい！
「もっと近づきたい」「だけど近づくことは命懸け」。無茶な恋ほど燃え上がるところがあるとしても、今は2023年。2人の恋にハラハラドキドキするのではなく、「果たして、両極の者が引かれ合うのはそんなに無茶なことだろうか？ 火は火としか、水は水としか結ばれないのか？」などと考えつつ、そんな概念になぜとらわれる必要があるのか、と共存への思いを巡らせたとしても的外れではないだろう。
物語の舞台となる「エレメント・シティ」がべらぼうに美しい。「地」が強固な土台を作り、いろいろな色や形を持つ「風」が舞う。そして「水」が豊かに流れ、「火」が情熱的に動き回って活気を与える。確かに「火」にはカッとしやすい気質があるし、「水」はちょっとすましていてクールだ。お互いの違いを認め、持っていないところを補えば、よりよいものになるのでは。エンバーとウェイドは、3歩進んで2歩下がるように互いに対する理解を深め、ズレを修復しながら、誠実に毎日を過ごしていく。
カエルム
発売日： 2022/11/30
