「水」の青年のキャラクター名がウェイドであることにも、個人的には合点がいった。というのも、アメリカには「ウェイド・イン・ザ・ウォーター」(水の中を行け)という題名を持つ有名なスピリチュアル(霊歌)があるからだ。ディズニーのスタッフならばエンターテインメント全般に精通しているだろうから、誰かの頭のどこかにこの曲がこびりついて、ネーミングに反映されたとしても不思議ではない。
ちなみにエンバーには残り火や名残という意味があり、映画の原題にあたる「Elemental」という単語には単純、率直、むきだしといったニュアンスもある。好きなんだから一緒にいたい、自分の人生の舵は自分でとりたい。そんなシンプルなことを、率直に勢いいっぱいに表現しているのがエンバーとウェイドである。物語中盤の「花を見に行くシーン」で、筆者の涙腺が緩み始めたことも書き加えておきたい。
音楽好きとしてさらに言わせてもらうなら、サウンドトラックにスティーヴ・タヴァローニ(デヴィッド・クロスビーやセルジオ・メンデスと共演)、スティーヴ・クジャラ(元チック・コリア・バンド)、ビル・ブース(ジャズとクラシックを縦断する重鎮)、ジョン・ビーズリー(グラミー賞の常連)などが名前を連ねているところにもステイタスを感じた。
筋書きや絵面はもちろん、サントラの一音一音に至るまで、一切妥協のない、どこまでも緻密に構築された、エンターテインメントの素晴らしさと奥深さをとことん伝えてくれる作品だ。
◆文=原田和典
カエルム
発売日: 2022/11/30