「すずちゃんはお芝居の教科書」
――撮影の場でお会いする方も、音楽の場ではなかなか関わらないみなさんだったかと思います。撮影を通じて刺激を受けたことはありますか?
すずちゃんは、やはり日本を代表する大女優だなと思いました。スタートって言われた瞬間に目つきと、まとうオーラが変わって、 完全にイッコさんになるんです。さっきまでのすずちゃんはもうどこにもいなくて、触れちゃいけないような、でも触れたいような、不思議なすずちゃんが目の前にいました。
それを見て、「これが演じるってことなんだ」と思って、そのすずちゃんを目の当たりにした日から、私にとってすずちゃんはお芝居の教科書です。歌やダンスだけをしていたら出会えなかったと思うので、本当に出会えてよかったと思います。
――映画では、たくさん演奏シーンがありました。その中でも印象的な演奏シーンを教えてください。
松村さんと村上虹郎くんとやった、「ずるいよな」という曲を演奏するシーンです。松村さんも初めてギターを練習されていて、虹郎くんもギターを元々弾けるけど、一生懸命練習していたりとか、 自分も自分で曲を作って歌うっていう…。この3人が一緒に演奏することは、多分この先ないだろうなみたいなのもあって、個人的には印象に残っています。もう生きていて、この3人が集まることはなさそうだなと(笑)。
――おふたりのギターで歌うなんて、普通だったらなかなかないですよね。
そうですね。UAさんとは舞台で一緒に舞台やらせていただいて、歌ったりしたんですが、その息子さんとも共演できるんだっていう。その喜びで、個人的にはテンションが上がりました。
寂しさが募れば募るほど曲を書きたくなる
――劇中曲を6曲ほど作詞・作曲をされたと伺いました。BiSHでの活動をしながら楽曲制作を同時に行うのは大変だったのでは?
そうですね。BiSHで12カ月連続リリースや、ツアーを同時に2本に回っていたりして、もうそれだけでもカツカツでした。なので、深夜しか曲作りができなくて、毎日2時間睡眠とかで活動していて、今考えるとすごいなと思います。
ですが、寂しいという感情に誰しも1度は襲われたことがあると思うんですけど、そういう感情が私の根っこにもあって、 その寂しさが募れば募るほど曲を書きたくなるんです。「キリエのうた」の撮影期間中は、ちょうど書きたい欲が強かったと思います。
「BiSHが解散した後どうしよう、1人ぼっちになるんだ」という不安とか、 8月に「ジャニス」っていう舞台やっていたんですが、それも27歳で死ぬ役柄で…。ずっと“死”という言葉が頭の中に浮遊していて、何かを作らなきゃいけない、作らないと気が済まないっていうモードでした。
――キリエは、歌が心のよりどころのように思えました。 アイナさんにとって歌とはどういう存在ですか?
歌は、衣食住みたいな感じで、なくてはならないものです。 もう生活の一部ですね。あと、人に対してまっすぐ何かを届けたいときに武器として使います。「消えないでほしい」とか、「そばにいてほしい」とか。言葉で言うのも大切ですが、 歌で伝えたらもっと心の奥に響くんじゃないかと私は信じていて。言葉をしっかり届けたい時に歌を使います。
――では、今回の歌も伝えたいことを考えながら、曲の制作をされたのですか?
そうですね。キリエはきっと、ここでこういう歌詞を歌うだろうなとか、普段話せない分、歌になると振り絞るように歌うからシャウトが多いだろうなとか、色々と考えながら曲を作りました。
2023年10月13日(金)全国公開
【原作・脚本・監督】岩井俊二
【企画・プロデュース】 紀伊宗之(『孤狼の血』シリーズ『シン・仮面ライダー』『リボルバー・リリー』他)
【出演者】アイナ・ジ・エンド 松村北斗 黒木華 / 広瀬すず
【制作】ロックウェルアイズ
【配給】東映