――藩主の暗殺計画が軸に描かれている作品ですが、その中でも大島優子さん演じる新左衛門の娘・あきとのシーンでは、新左衛門も人間らしさのようなものが感じられました。
新左衛門に暗殺を命じた(土井大炊頭役の)里見浩太朗さんと大島さんのシーンがあることによって、十三人が成し遂げていることの大きさや決意が見えるような気がしますね。
また、これは僕だけが思っているのかもしれませんが、里見さんは以前新六郎のお役をやっていて、その時の現場の緊張感を覚えているとおっしゃっていたんです。刺客側の立場も経験したことがあるからこそ、里見さん演じる土井大炊頭から優しさを感じられるのではないかなと思います。
――芝翫さんとご自身が演じる新左衛門との共通点はありますか?
ひとつのものを信じるということですかね。
あと、僕は新左衛門を演じている時に亡くなった父の教訓を思い出していました。
うちの父親は子供の頃から「人には謙虚でなくてはいけない、人に感謝の気持ちを持たなくてはいけない、心には信念を持って仕事をしなさい。“謙虚”、“感謝”、“信念”」とずっと言われ続けたのですが、それがぴったりと合うようなお役でした。
また、いいお父さんとしての一面やちょっと間抜けなところがありながらも、スイッチが入ると目的に向かって突っ走る…。新左衛門のそういった部分は憧れます。
共通点とは違いますが、剣を置き、第一線からは退こうとする…。こういった“男盛り”を過ぎたお役ができるようになったというのは楽しいですね。孫の話をフラットにできるようになるなんて…って(笑)。
撮影時にはあまり感じなかったのですが、完成した作品を見ていたら「ああ、そうか…」となりました。
――今作は京都の撮影所で撮影が行われたそうですが、撮影の様子はいかがでしたか?
皆さんもそうだと思うのですが、僕も実家の周りの景色が変わったり…。子供の頃に感じた雰囲気を残しているところってなかなかないですよね。
僕らの本拠地の歌舞伎座も建て替えがありましたし、大河ドラマ「毛利元就」(1997年、NHK総合ほか)の時から変わらないNHKさんくらいじゃないでしょうか(笑)。
京都の撮影所には俳優会館という楽屋のような建物があるのですが、そこのにおいをかぐと初めて撮影所に行った時のことを思い出すんです。
そんな撮影所ですので、スタッフの方々は本当に生き生きとしてらっしゃいましたね。
“往年の時代劇”というような映像なのですが、撮影での待ち時間は照明の仕込みのためということが多かったです。
今はカメラの性能が良くなってきたのであまり照明をたかなくても撮影できますが、僕はフィルムカメラで育ってきまして…。
昔は萬屋錦之介のお兄さんに「明るいところにいかないと映らないんだよ!フィルムは!」なんて怒られたこともあったりして。
今回の撮影では久々に、「もうちょっと当たってください」とか「あの明かり受けてくれますか」とかいうやりとりが多かったですね。色んな時代劇の醍醐味がこのドラマには含まれているなと思いました。
また、渥美清さんがよく「自分一人しか映っていないカットでも、その中に50人くらいの思いが詰まっているんだよ」って言われていたんです。今回も同じようにワンカットに凝縮されたものがあるなと感じました。作品は「十三人の刺客」だけれど、スタッフを含めた何百人の刺客だなと。
――最後にこの記事を読んでいる方へのメッセージをお願いします。
僕は歌舞伎という世界に身を置いていますが、映像の時代劇というものも見て育った世代です。
今、コンスタントに時代劇をやっているのはNHKさんくらいですよね。日本にはたくさんいいドラマがありますから、今回のような形で過去の作品がリメークされ、NHKでよみがえるというのがとてもすてきなことだと思います。
時代劇というと“古臭い”“意味が分からない”と敬遠されてしまう方もいると思うのですが、見ごたえのある作品ですので、ぜひ11月28日は夜9時までにはお食事を済ませて、テレビの前に家族揃って座っていただきたいです(笑)。
この作品は空前の大スペクタクルな立ち回りという見せ場があるのですが、あまりグロテスクさは感じない仕上がりになっていると思います。血は“義の汗”のように感じていただければと。
時代劇は演じる側としても支度に時間がかかりますし大変なものです(笑)。
でも、僕が表現者として歌舞伎というものが根底にあることが影響しているのかもしれませんが、久しぶりに時代劇に出演させていただいて、やはり時代劇は面白いなと思いました。
刺客たちを見ていると「何のために生きるのか」と思ってしまいますし、そう言われてしまうと「何のためなのか…」となってしまいますが、そういった部分に日本人の“心根”があるような気がするんです。
そんな日本人の奥底にあるようなものを感じていただきたいですね。
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