――監督は企画段階で、山本を演じるのは綾野さんしかいないと思われたそうですね。
藤井監督:ヤクザの映画を撮ろうと思った時に、剛さんがポンと浮かんだんです。(自身がメガホンをとった)映画「デイアンドナイト」(2019年)でコメントをくださったんですけど、その際は出演してない組に焼き肉弁当を差し入れてくださったりして。
「そんな神のような人いるの!?」って思っていたんです(笑)。
なので、最初はすごく緊張していたんですが、剛さんがやってくださるならと思って山本という男は当て書きしました。
綾野:でも、山本は僕の他にもできる人はいたと思うんです。
藤井監督:いやいや。
綾野:山本は生きる目的を探している。自分の生きる理由を探すというか、自分が生きていていいですよ、という権利を獲得しなきゃいけない男。
僕で言えば、この仕事をしていることで生きる権利を与えてもらっている。だけど、自分の存在を認めてもらいたいという気持ちは、誰にでも共通して思っていることなんじゃないかなと。
藤井監督は僕に当て書きしてくれましたが、山本という存在は本質的にいろんな人が理解できる人物という意味では、山本は誰にでもなりえる。ただ、白羽の矢が立ったからには、俳優部だけでなく各部署が映像に写っているような作品にしたかった。結果、それが可能になり、僕たち30代の若いチームが新しいものづくりをする上での大切な第一歩になったと思います。
――脚本を読んで感じたことは?
綾野:脚本はフィクションですけど、そこには監督の作品としての事実が書いてある。覚悟して作品を撮るという気合いが伝わりました。
山本という男の本質的な部分がしっかりと描かれていて、そこに自分を当て書きしていただいたので、人物像がより強く深くなっているなと。最大のラブレターでした。
僕自身も、よく作品を作りたいという気持ちで読んでいたので、最初の時点で監督とシンクロしていたように思います。
――フィクションでありながら、ノンフィクションのようにも感じられました。
藤井監督:映画という文化の中で、何ができるんだろうと考えたときに、リアリティーはなきゃいけないなと思うんです。
俳優部が「もしこんな人生だったら」を体現するので、そこはすごく大切にしましたし、剛さんが座長でいてくれたからこの作品が撮れたなと思います。
――映画「ヤクザと憲法」(土方宏史監督の、ヤクザの人権について撮ったドキュメンタリー)をふと思い浮かべました。
藤井監督:土方監督が褒めてくださっている記事を読んだんです。そこには「僕らが描けないことがちゃんと描かれていた」と書いてあって、すごくうれしかったですね。
この作品は3つの時代を描いているんですが、僕らは剛さん演じる山本賢治の背中を追っていたので、第一章から順番に撮っていきました。
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