――山本という男を演じるに当たってどうアプローチしたんでしょうか?
綾野:衣装部やヘアメイク部をはじめ、俳優部以外の部署が山本を作ってくれました。僕はただ立っているだけで、彼が時代とともに変化していっているように見えるんです。時代によって光やカメラのサイズも変えたり、全員でその瞬間の時代性を生み出していったんです。
監督と役について話すこともありましたが、周りが作り出してくれるものが大きかったので、僕はただ生きたという感じです。唯一、彼の血の流れや体温を意識していました。
――今回、タッグを組んで感じたことは?
藤井監督:僕と撮影の今村(圭佑)は、よく「どう? 撮りやすい?」って現場で話したりするんです。全然タイミングや感覚が合わない時もあって(笑)。山本が海からバイクに乗ってきて葬儀場に行く冒頭のシーンがあるんですが、それがクランクインのファーストカットで。それが撮れた時に、大丈夫だなと思いましたね。そこからは興奮の連続でした。
いつもわれわれは妥協をしないから「もういいでしょ」ってよく怒られるんです(笑)。でも主演がそこに乗ってくれて、一枚の画にどう執着するかを受け入れてくれたので、一緒に作ることができました。
剛くんにはノースタントで車に轢かれたり、いろんなことをやっていただいて……末長くお願いします。
綾野:はい。笑。
――綾野さんは、藤井組の印象はいかがでしたか?
綾野:才能って生まれ持ったものだと思われがちなんですけど、才能は作れるものだと思うんです。意識して自分をそこまでもっていけば、能力は追い付いていないけど意識は追い付けるので、才能=能力ではなく、才能=意識だと僕は思っていて。藤井監督は、その意識の高さがとても他人だと思えなくて、ずっと知っていたかのような感覚になりました。
黒澤明×三船敏郎のように、藤井道人×綾野剛で作品を作っていきたいなと素直に思える監督です。今残せるものを、自分たちの年代で作っていきたい。自分さえも置いていかれそうになる意識の高さをもった藤井道人っていうのは圧倒的強者で、僕にとっては最高に魅力的だし、最高のご褒美なんです。とってもおいしい最高のディナー。
お互いを食い続けるために、「まだ食いたらねぇな」「どんなに食べても新しい味がする」というような役者として監督の前に立ち続けたいと思います。
藤井:僕も頑張ります。
――最後に、お二人にとって“The Family=家族”とは?
綾野:現場です。帰る場所があるっていうことが重要です。それって家族だと思っていて。どの作品を見てもエンドロールで名前を見つけられるのは、ファミリー精神だなと思っていて。僕は俳優で表に出ていることが多いので、10年前にご一緒した人が「また剛くん出てるな」と思ってくれたりもする。
藤井:僕もまったく一緒で、こういうと恥ずかしいんですけど。
綾野:現場だよね。
藤井:他のことができなくてこの仕事をしているので、そう考えると一本一本の組が自分を肯定してくれる唯一の場所だから。
綾野:存在証明だよね。
藤井:基本、僕も現場が家族だなと思いますね。戻ってくる場所だし、そこがないと自分には価値がないと思っちゃう。
綾野:生きている権利を現場で獲得しています。
◆取材・文=横前さやか
◆スタイリスト:申谷弘美/ヘアメーク:石邑麻由
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