「息をひそめて」というタイトルが、とてもすてきだと思いました。生きることに器用になれない登場人物たちのささやかな変化を、柔らかな光と優しい眼差しで切りとった作品です。
私が演じた妃登美は、凛とした強い女性に見えるけれど、もろくて繊細な一面も持ち合わせた女性です。そんな彼女が1話の中で、少しだけ心のドアを開いて、半歩踏み出すその姿を、丁寧に演じていきたいと思いました。
脚本を読ませていただいた際に、まさにこの今の時代の流れを象徴している作品だととても思いました。自粛期間は、人と会わないことが人を救うことになるという、非日常のルールをみんなが感じていたと思います。
この脚本を読んで、あらためてそのことを強く感じましたし、あのときに自分の感じた思いや気持ちが全て重なったので、この作品の世界に入ることがとても楽しみでした。
短いストーリーの中で、脚本の段階から人間がすごく丁寧に描かれており、中川龍太郎監督という人が撮る作品は突出した刺激的なハプニングが起きることに執着することがなく、頼ったりせずに、日常から人の変化を見つけていくことがすごく得意な方だと思いますし、今回もその部分が存分に表れている作品になっていると思います。
少しの男女の関係、恋愛っぽい雰囲気を見てる方に楽しんでいただけて、マッチングアプリで出会う男女のちぐはぐな感じに共感していただける部分があると思います。
そして、この変わってしまった世界の中で、人々がどういうふうに生きているかを見ていただき、何となく「ああ、そうだよな」って、どこかに心を寄せて共感してもらえたらうれしいです。
この物語群はモノローグ(心の声)によって登場人物の心の形が補填され、言葉のやりとりだけではない、絵葉書のような風情、情感、余白の連鎖からなる、美しい私小説的な作品です。
私自身、演じていて浄化されていく感覚がありました。それぞれの物語に、見た方の心当たりが見つかることを願っております。
2020年は、世界中の誰にとっても特別な1年だったと思います。この物語は、その1年を生きた、河原の町で生活する“普通の人々”の物語です。誰もが息をひそめて生きていかざるを得なかったこの1年。
「息をひそめて、前を向く」困難な時代だからこそ、私たちは投げやりになることなく、背筋を伸ばし、生きられるかどうかが試されている気がします。こんなときだからこそ、優しくありたい。
そんな気持ちで紡いだ8つの結晶(物語)に触れてもらえましたら幸いです。
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