監督賞は「エール」 志村けんさんの訃報を受け「戦争の場面の台本を書き直した」(吉田照幸D)

2021/02/24 18:00 配信

ドラマ

連続テレビ小説「エール」の演出チームがドラマアカデミー賞監督賞を受賞(C)NHK

「第106回ザテレビジョン ドラマアカデミー賞」で監督賞を獲得したのは、連続テレビ小説「エール」(NHK総合ほか)の吉田照幸松園武大橋爪紳一朗の3氏。ミュージカル演出に最終回の歌謡ショーなど、斬新な演出が多くの視聴者の記憶に残った。今回は、吉田氏に撮影の裏側、コロナ禍での撮影などについて聞いた。

――「エール」で監督賞を受賞された感想を教えてください。

窪田正孝さんの主演男優賞、二階堂ふみさんの助演女優賞、GReeeeNのドラマソング賞はもちろん、演出面が評価されたことは率直にうれしいです。でも、正直、作品賞が欲しかったなという気持ちも(笑)。

“朝ドラ”は朝に放送するものなので、作り手が自分たちで制限をかけてしまいがちなんですが、もっと感情を揺さぶるような表現をしようと考え、笑いからシリアスまで幅広く、メリハリをつけようとしました。「朝ドラのイメージ変える」という意気込みを持って始め、監督として今まで気恥ずかしいかなと思っていたことも全部やったので、それが評価につながったのかもしれません。一緒に演出をした松園武大橋爪紳一朗野口雄大も、演技達者な俳優さんが多い中、奮闘してくれました。

窪田、二階堂、薬師丸、唐沢の4人芝居は「完全にコントの作り方」

――シリアスな場面では、後半の太平洋戦争の場面も高く評価されました。戦意高揚の歌を作曲していた裕一(窪田正孝)は戦地ビルマ(現ミャンマー)に慰問に行き、敵の攻撃を受けて戦争の真の恐ろしさを知ります。

朝ドラとしては戦争を被害者の視点ではなく、一種の加害者である裕一の視点で描くこと自体が珍しかったのでは。この放送時間帯で戦場をリアルに描くことには反対意見もありましたが、裕一のモデルである古関裕而さんの人生において戦争はものすごく大きな影響を及ぼしたわけなので、やはり“刺さる”映像にしたいと思いました。ビルマの水たまりのある場所を歩く場面では、美術スタッフが「水に血の色混ぜたらどうですかね」と提案してくれて、そういったひとつひとつが評価につながったのかなと思います。

――コミカルなシーンでは裕一の同郷の友・久志(山崎育三郎)と音(二階堂ふみ)の恩師・御手洗(古川雄大)の対決が話題になりました。

プリンス久志とスター御手洗のようなバカバカしいやりとりは、役者さんに「思いきりやってくれ」とお願いしました。僕は(『サラリーマンNEO』などの)コント出身なので、がまんできなかった面もありますね(笑)。ドラマの笑いって閑話休題的に入るものが多く、そこだけ切り取っても特別に面白い訳ではない。でも、朝ドラですから、朝、見てくれた人が学校や会社に行く前に「面白かったよね」といい気分になれるのではないかと…。

コントでは、もともと面白い芸人さんなどが面白い人を演じてしまうと、逆に痛いんです。俳優さんのような普段は真面目なイメージの人がやると面白くなる。前半、音の実家で裕一との結婚の話をするときに、音の母・光子(薬師丸ひろ子)、裕一の父・三郎(唐沢寿明)も交えて話し合うところも楽しかったですね。

窪田さん、二階堂さん、薬師丸さんと唐沢さん。この4人のやり取りを15分間通す台本を書いたのですが、完全にコントの作り方で、全員がドラマの主役を張る人たちなので「こんなぜいたくなコントあるのか」と思いました。本番の4人の演技もライブ感があって最高でしたし、そこで現場がひとつにまとまった感覚はありました。