監督賞は「エール」 志村けんさんの訃報を受け「戦争の場面の台本を書き直した」(吉田照幸D)

2021/02/24 18:00 配信

ドラマ

連続テレビ小説「エール」の演出チームがドラマアカデミー賞監督賞を受賞(C)NHK

戦争の場面の台本を「全て見直して書き直した」

――劇中で古関裕而さんの名曲がたくさん使われましたが、音楽の力に助けられたことはありますか?

すべてが音楽の力によるドラマでした。外出自粛要請があり、みんなが別々にテレビを見ているときでも、どこかつながっている感覚を持ち何かを作用させていたのは、歌の物語だったからじゃないかなと思います。

裕一が早稲田大学の応援歌「紺碧の空」を作曲するところでは、歌うことで応援団の絆を表現できました。歌が本能的に訴えかけてくる力を感じましたね。主題歌の「星影のエール」もまさに応援歌で、ありがたかったですね。

歌唱では、音役の二階堂さんが歌を猛練習し、オペラの場面は吹き替えも想定していたんですが、自分でやると言ってくれました。環役の柴咲コウさんも迷うことなく自分で歌ってくださったので、女優さんたちの強さに助けられましたね。

――撮影が中断し、放送期間が大幅に延びるという朝ドラ史上にない経験をされましたが、吉田監督が一番のピンチだと思ったのはどの瞬間でしたか。

僕個人の気持ちとしては、やはり3月29日、(音楽界の重鎮・小山田役の)志村けんさんが亡くなったときです。放送開始の前日でしたからね。本当に信じられなかった。聞いた瞬間、相手が何を言っているのかも分からないという状況で、そこから記憶がないんですよね。

まず2週間、撮影が中断し、どうやって乗り越えたかというと、実際にドラマの放送が始まって「このドラマに励まされている」「毎日、楽しみにしている」という皆さんの声が届き始めたので、制作をなんとか続けなければと……。その段階で、僕は戦争の場面の台本を書き終わったところでしたが、全て見直して書き直し始めました。

――コロナ禍でたいへんな時期にシンクロするように戦争を描いたわけですね。

そのときのように緊急事態宣言が出た瞬間、生活のすべてが変わっていく。価値観も変わっていくわけで、そういう抗しがたい世の中の流れっていうものは、戦争に通じるところがありますよね。だから、ドラマの中でも、軍部を応援する人、それをいけないと思っている人、傍観している人、ただ早く終われと願っている人などをバラバラに描いていきました。

それで、撮影が再開し、まずあのビルマの場面を撮ったときに、現場では「いいものが撮れている」という手応えがあり、すごい演技を見せてくれた窪田くんもあの回で「このドラマに出てよかったです」と言ってくれました。そこでチーム全体に「全国の人に最後まで恥ずかしくないものを届けなければいけない」という空気が流れ、そこからは順調でしたね。やはり危機というものは、みんなをひとつにするなと思います。