「俺の家の話」宮藤官九郎 今作で見えた「変わらない部分と、変わんなくて良かった部分」【インタビュー後編】

2021/05/21 20:21 配信

ドラマ インタビュー

「俺の家の話」の宮藤官九郎が第107回ドラマアカデミー賞で脚本賞を受賞(C)TBS

「第107回 ザテレビジョン ドラマアカデミー賞」(2021年1~3月放送の連続ドラマが対象)で「俺の家の話」(TBS系)の宮藤官九郎が脚本賞を受賞した。長瀬智也との黄金タッグで挑んだホームコメディーは、「能や介護という難しい題材をクドカンらしく昇華」「意外な結末、見事な伏線回収。長瀬とのタッグをまた見たい」と圧倒的に支持された。インタビュー後編では、脚本の中で主演の長瀬に向けて書いた部分や、今作を通して脚本家として達成したことを語ってもらった。

西田敏行のセリフに「これは長瀬くんに当ててないとは言えないよな」

――今回、長瀬智也さんも主演男優賞を受賞されました。寿一としての演技に驚かされたのはどのシーンですか?

第7話、寿一が息子の秀生(羽村仁成/ジャニーズJr.)の作文を読むところ。台本には泣くとは書いていないんですが、長瀬くんがマスクで涙をふいて、すごいなと思いました。第8話、タクシーの中で照れながらスーパー世阿弥マシーンのマスクの紐を指でくるくる巻くとか、そういう仕草は僕の中から出てこない。長瀬くんは感動的な場面でも笑いのパートにも瞬発力があるんですよね。普通ならテクニックでやると思うんですけど、それを良しとしないところがある。「こう書いたらこうするかな」という予想を超えてきますね。


――特に最終回、長瀬さんに向けて書いた場面があったのでしょうか。

たしかに、セリフでも西田(敏行)さんが「褒めたら終わっちゃうから」「人間家宝、観山寿一!」と言うのがあって、書きながら「これは長瀬くんに当ててないとは言えないよな」と思いました。最終的にそういう展開になったのは、西田さんが長瀬くんのことを好きだっていうのも大きいですよね。

始めは「タイガー&ドラゴン」(2005年、TBS系)の竜二(岡田准一)とどん兵衛(西田)のように、ぶつかり合う父子の関係になると考えていました。弟や妹たちも父親の遺産を当てにしていて、後妻業の女も出てきて、そういう愛憎劇みたいなドラマになるかなと思っていたけれど、いざ始めてみたら、そうはならなかった。もう第1話の風呂のシーンから、寿一と寿三郎は仲良くなっちゃいましたから。


――寿一と恋仲になるさくら(戸田恵梨香)と、元妻のユカ(平岩紙)が「(寿一は他人のことを考えすぎて)自分がない」「あたしなんて(寿一の中で)2GBしかない」と言い合うくだりにも、宮藤さんから見た主演・長瀬さんの印象が反映されているのかと思いました。

自分で監督した映画「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」(2016年)のとき、現場で主演の長瀬くんがすごく難しい顔をしているので、なんだろう?と思って聞いたら、「演じる鬼の衣装の丈が違う」「このシーンでは3つ目の目玉がいらないのでは」と考えていたそうで、なんだそんなことかと(笑)。

池袋ウエストゲートパーク」(2005年、TBS系)、「タイガー&ドラゴン」のときにはそんな長瀬くんを知らなかったから、今回はそれをセリフ化したところはありますね。そこにいるのに、いる感じがしないとか、他のことを考えているとか、何かに集中しすぎて殺気立つとか。女の人から見ると「私のことどう思ってるの。私は寿一くんの何なの」と思わせてしまうような…。でも、それって長瀬くんだけでなく誰にでも当てはまることですよね。