「自分が決めた幸せを他人に左右されてはいけない」脚本家・吉田恵里香が、ドラマ「恋せぬふたり」で届けたいメッセージ

セクシュアリティは第三者が決めつけられないこと

羽(高橋一生)と咲子(岸井ゆきの) (C)NHK


――今回、原作などがない中で、舞台設定やキャラクター作りに関してはいかがでしたか?

最初に全体構成を作る段階から、当事者の考証の方にも入っていただいて、打ち合わせをしたり、日々勉強しながらやっていました。その打ち合わせの中でなにげなく発した言葉にも、「これは傷つく言葉です」と言われることも多くて、本当に対話とともに作り上げていったという感じです。

当初、このドラマを通じてアロマンティックやアセクシュアルという言葉が認識されて、当事者の方が、「アロマンティック・アセクシュアルです」と言えるようになることがいいのかなと思っていたんですが、当事者の方からすれば、それも綺麗ごとととれる場合もあるのだなとわかりました。フィクションなので、優しい世界を描いてしまったら、それが現実とは違っているから傷つけてしまうときもあるんだなと思いました。それに、シスヘテロ(シスジェンダーとヘテロセクシュアルの省略。生まれ持った身体的性別と性自認が一致し、異性愛者である人のこと)にもいろんな人がいるし、アロマンティック・アセクシュアルにもいろんな人がいるし、一言で言い表せるわけじゃないんですよね。脚本を書いている間に、私自身も本を読んだり映画を見たりして知識を得たつもりだったけれど、そういう気になっていただけだったんだと、わが身を振り返りました。

――確かに、岸井さん演じる咲子と高橋さん演じる高橋、2人ともアロマンティック・アセクシュアルですが、それぞれにかなり違ったところが表れていますね。

2人を描き分けるのは難しくはあったんですが、考証の方々のおかげで、いろんなタイプの人がいるということも描けるようになったのかなと思います。相談していると、たとえば恋愛のことがわからないだけで、肌の接触は楽しくないけれどできるという人もいれば、嫌悪感がある人もいるということを知って、2人にそうした異なる感覚を投影しました。その感覚は第三者が決めつけられないことなので、高橋にしても咲子にしても、あくまでも本人がそう感じているということが大事なんだと思っています。

羽(高橋一生)と咲子(岸井ゆきの) (C)NHK


――制作スタッフインタビューで、尾崎裕和さん(制作統括)が「ドラマのためにキャラクターを動かしてはいけない」とお話されていたのを思い出しました。一方で、このドラマの制作のニュースがあったとき、はじまりはアロマンティック・アセクシュアルのことを描きながら、最終的にはよくあるラブコメディのようになったらどうしようという声もありました。どんな結末に至るかは難しかったのではないでしょうか。

「自分が決めた幸せを他人に左右されてはいけない」ということを伝えたいと思ったのですが、やっぱり後半は悩みました。でも、自分の中では踏み込んだところまで書かせていただいた結末だと思っているので、どういう反応が返ってくるのか楽しみです。