恋愛に至ると思われそうなシチュエーションでも、恋愛に至らなくてもいい
――咲子の同僚のカズくんのキャラクターも気になりました。
カズくんは、シスヘテロで恋愛が第一というキャラクターなので、その人がどう変わっていくのかを描きたいと思いました。各々のセクシュアリティの違いはあるものなので、カズくんを悪い人には描きたくなかった。ドラマの中で一番変わっていくのがカズくんではないかと思うので、そこにも注目していただけたら嬉しいです。
――自分自身がどんな指向であってもいいけれど、「他人が全員、自分と同じだろう」という考えから変化していくということですね。また、咲子はまだ自分のことがよくわからないので、自分と同じなのかもしれないと思えた高橋にすごく積極的に関わっていきますよね。
ネット検索をして自認に至る人が圧倒的に多くて、ドラマの中のように高橋みたいな存在に出会うということは多くはないと思うんです。でも今、人口の1%近くがアセクシュアルを自認しているという調査もあるし、本当ならもっと出会っているのかもしれないと思ったんですね。あとは、今までだと恋愛に至ると思われそうなシチュエーションでも、恋愛に至らなくてもいいんだよということをドラマで描きたかったんです。運命的に出会ったり、同居したりとかそういうシチュエーションだと、多くのドラマでは恋愛に至ることが多かったけれど、必ずしもそうではないということも描きたかった。描写は悩みましたが、恋愛もので容認されてしまう無神経さ・人との距離感のおかしさのようなものも表せればとも思い、序盤では咲子をああいう人物として描きました。
――そうした思い込みを、高橋がちゃんと言葉で覆してくれるのがよかったですね。
ありがとうございます。前半においては確かに、まだ自分のことがよくわからない咲子に対して「こうしてもいいんだよ」と思わせてくれる人になればいいなと思ったので、高橋がスパっとものを言うシーンは多くなりましたね。高橋一生さんが演じるので、強すぎることもなく、でも見る人が見て、そう言ってほしかったんだと思えるようなシーンになっていると思います。
現時点ではこのスピードで描いていけたら
――では後半には、咲子もだんだん迷いが少なくなってくるんでしょうか。
そうですね、咲子はもちろん変わっていくんですけど、劇的にドラマチックに変わっていくのではなく、もっとじわじわと変わっていくと思います。
――最初のほうは、咲子のキャラクターが、よくあるラブコメの主人公のような感じがして、個人的には不安な気持ちもあったのですが、そこも何か狙いがあるんでしょうか。
私としては、ラブコメの主人公のような、明るくてちょっとドジなところがあるというキャラクターの子が、恋愛しなくたっていいじゃんということが描きたかったんです。
――そういうことだったんですね。だとすると、高橋のキャラクターも、最初のうちはちょっとクールな感じだけれど、徐々にそれだけではない人物像が見えてきそうですね。
やっぱり、高橋というキャラクターは祖母と暮らしてきた年月があって、その中で感じてきたものを描けていればいいなと思っています。回を追うごとに見えてくる2人の姿を楽しんでもらえたらと思います。
ドラマのスタート時点では、もしかするとアロマンティック・アセクシュアルの当事者の方や、知識のある方にとっては、どうなのかなって思われることもあるかもしれないんですけど、このドラマを見られる方の中には、アロマンティック・アセクシュアルという言葉を知らない方もたくさんいると思うので、全8回を通して、ゆっくりでも知っていただけるのは良いことなのかなと思います。おそらく日本のテレビドラマで、ここまで正面から描かれるのは初めてではないでしょうか。数年後に振り返ったら、より多くの方に「アロマンティック」や「アセクシュアル」という言葉自体も認知されるようになって、ドラマでの描かれ方も変わっているかもしれませんが、現時点では、このスピードで描いていけたらと思っています。
番組情報
NHK よるドラ「恋せぬふたり」1月10日(月)放送スタート
毎週月曜日 夜10時45分~11時15分 <全8回>
【出演】 岸井ゆきの 高橋一生 /
濱正悟 小島藤子 菊池亜希子 北香那
アベラヒデノブ 西田尚美 小市慢太郎
公式サイト
TCエンタテインメント