伊集院光が語る、名著からの学び「本当に好きなことを見極めながら歳をとっていくのが理想」

伊集院光 撮影=山川哲矢

落語家からスタートし、深夜ラジオやクイズ番組など幅広いフィールドで活躍してきた伊集院光。そんな伊集院のキャリアの中でも重要なレギュラー番組のひとつに、専門家を交えて古典や名著を語る「100分de名著」(毎週月曜夜10:25-10:50、NHK Eテレ)がある。過去に番組で取り上げた名著について、伊集院が改めて専門家と対談した「名著の話 僕とカフカのひきこもり」(以下「名著の話」)が刊行されるにあたり、古典から得た様々な人生の学びについて話を聞いた。伊集院の考える理想的な老い方、そして生きがいとは。

「わかりません」と正直に言うと決めた


――「100分de名著」 (以下「100分」)に出演することになったのは、どういった経緯で?

2010年代の最初の頃、それまでに得た知識をアウトプットする仕事ばかりの中で、新しい知識をインプットできる番組をやりたいと思っていたんです。そこに「100分」の話が来ました。ただ「100分」はすでに別の方がワンクール担当していて、それを見ると、ちょっと専門的すぎてついていけないかもしれないと思いました。ならば僕は無知な人、未読な人という立場で「100分」に臨みたいと。無知な僕がついていける話題なら、視聴者の方も安心して見られるだろうと思って。僕はテーマとなる名著を読まずに収録に挑みます。その代わりに肝に銘じたのは、「絶対に見栄を張らない」ということ。どんなに「これは知ってますよね?」って言われても、「いや僕はわかりません」と正直に言う。いちばん最初に「100分」のスタッフの方とそこをしっかり話し合いましたね。

――「名著の話」でも最初に触れられているカフカの『変身』は、ある朝気づいたら人間だったはずの主人公が突然虫になっていた、というシュールな話です。

その回の先生は『変身』の訳者である川島隆さんなんですが、「100分」の収録時、先生のお話で目から鱗がばらばらと落ちました。「原語の『虫』には『益虫ではない虫』『役に立たない』という響きがあるんですよ」。これを聞いて「ああ、『変身』はある朝突然役立たずになった男の話なのだ、そうだ、高校生のとき、ある朝突然学校にいけなくなった僕のように!」と、もう一気に理解できた。「わけのわからない話」と決めつけていた『変身』が、先生の一言で180度変わっちゃったんです。

先生はさらに、この会話を経て新しく訳し直した『変身』の中で「虫」という単語を「虫けら」に変えたそうです。「目覚めると虫けらになっていた」すごくないですか?これだと過不足なく自然な言葉遣いの中に「役立たず」のニュアンスがしっかり入ってる!知識ってすごい、教養ってすごいって思わされました。

――放送当初の「100分」への反応はいかがでしたか?

予想通り「伊集院、そんなことも知らないの?」という声もあったけど、「わかりやすくなった」といってくださる人がたくさんいて、すごく嬉しかったです。さらに『変身』の回では「伊集院さんの言葉で、主人公が虫になったことと、歳をとって体が動かなくなった自分が重なって、深く理解できました」と言うお年寄りがいて、なんだか感激しましたね。

関連人物