尾野真千子、幅広い役を体現して培われた類い稀なる演技力で物語に“深み”<すべて忘れてしまうから>

2022/11/02 07:10 配信

ドラマ コラム

尾野真千子が“M”の消えた恋人“F”を演じている(C)Moegara, FUSOSHA 2020

今最も話題の作家の1人である燃え殻のエッセイを国内トップクリエイターがドラマ化した話題作「すべて忘れてしまうから」は、阿部寛演じる作家“M”を主人公に、消えた彼女“F”(尾野真千子)を巡る、大人の心に染みわたるミステリアスでビタースイートなラブストーリー。回を重ねるごとに深みを加えているのが、阿部が演じるミステリー作家“M”を中心に、ひとくせあるキャスティングによる大人たちの人間模様。そして、いよいよ“真打ち登場”とばかりに、10月26日に配信された第7話で、“M”(阿部)の前から失踪した恋人“F”(尾野)が画面上にしっかりと姿を現した。11月2日(水)に配信される第8話でさらなる展開を迎えるということで、今回は“F”を演じる尾野について紹介したい。(※以下、ネタバレを含みます)

消えた恋人がいよいよカムバック

「すべて忘れてしまうから」より(C)Moegara, FUSOSHA 2020


突然幼稚園を辞め、“M”の前から姿を消していた“F”。彼女が第5話で“M”のもとに電話をかけてきた。本当に久しぶりの電話だったようだが、相手が誰であるかを確認することもなく、まるでこの前の続きであるかのように自然に会話していたのが、“M”と“F”の関係性の深さを印象づけた。電話越しに変調されてはいたとはいえ、そこには憂いと深みのある尾野の声が確かに存在した。

続く第6話では後半に姿を見せ、まさしく「もっと見たい」というところ、心憎いタイミングで画面が切り替わる。そして第7話では、ある日突然姿を消した“F”の物語が、現在の姿とともに描かれた。第7話で“M”と再会することはなかったものの、“F”がこれまで抱えていた葛藤や思いなどが回想シーンや、現在の姿で見て取れた。第8話の予告では、帰って来た“F”が姉(酒井美紀)と再会する様子が映し出されており、“M”との再会もあるのだろうか。

そんな“F”を心憎いばかりの演技力で体現するのは、20年以上にわたり第一線で活躍する尾野。物事にホップ、ステップ、ジャンプという進み方があるとすれば、尾野はいきなり“ジャンプ”する運命に生まれついてしまった才能という印象がある。15歳の時に河瀬直美監督の目にとまり、1997年公開の映画「萌の朱雀」でデビュー・初主演。この作品で「第10回シンガポール国際映画祭」の主演女優賞、「第12回高崎映画祭」の最優秀新人女優賞に輝き、鮮烈な印象を与えた。こういう人を「神童」というのだろう。

連続ドラマで大きな存在感

「すべて忘れてしまうから」より(C)Moegara, FUSOSHA 2020


その後、本格的に女優業をスタートすると、「EUREKA」や「リアリズムの宿」などさまざまな映画に出演。中でも大きな注目を集めたのは、芦田愛菜演じる娘を虐待するシングルマザーを演じた連続ドラマ「Mother」(2010年、日本テレビ系)、そして翌年に放送された連続テレビ小説「カーネーション」のヒロインだろう。同作では“コシノ三姉妹”の母であり、ファッションデザイナー・小篠綾子をモデルとする主人公・小原糸子をパワフルに体現し、「東京ドラマアウォード2012」で主演女優賞を受賞した。

朝ドラヒロイン後に出演した「最高の離婚」(2013年、フジテレビ系)でも尾野の演技はさえ渡り、「第39回放送文化基金賞」で演技賞を受賞。同作は1年後にスペシャル版が作られるほど人気を得た。それからもドラマ、映画、舞台、ナレーションなどさまざまな場で多彩な表現を繰り広げ、シリアスな役からコミカルな役まで、文字通り体を張って体現している。