阿部寛がリアルを追求した“受けの芝居”で魅せる大人な人間ドラマ<すべて忘れてしまうから>

2022/11/19 11:10 配信

ドラマ コラム

「すべて忘れてしまうから」最終話が11月16日に配信された(C) Moegara, FUSOSHA 2020

阿部寛が主演を務め9月14日から毎週水曜に配信されてきた「すべて忘れてしまうから」の最終話が、11月16日に配信された。同ドラマでは、阿部がこれまで演じてきた役柄とは一線を画す主人公を演じ、役者として新たな境地に挑んだ。(以下、ネタバレを含みます)

同作は、今最も話題の作家の1人である燃え殻のエッセイを国内トップクリエイターがドラマ化した話題作で、阿部演じる作家“M”を主人公に、消えた彼女“F”(尾野真千子)を巡る、大人の心に染みわたるミステリアスでビタースイートなラブストーリー。

阿部、尾野の他、“Bar 灯台”のオーナー役でChara、同バーで働く元バンドマンの料理人役を宮藤官九郎、“F”の元同僚役で大島優子、“F”の姉役で酒井美紀が出演。さらに、最終話のCharaらエンディング楽曲を毎話異なる10組のアーティストが担当することも話題となった。ディズニーの公式動画配信サービス・ディズニープラスのコンテンツブランド「スター」で全話配信中だ。

“大人”なテイストでじわりとした苦みを感じさせる

「すべて忘れてしまうから」最終話より(C) Moegara, FUSOSHA 2020


恋人“F”が突如失踪するも、「大人なのだから」という思いから特に焦って捜すこともなく待つ“M”の元に“F”の姉を名乗る女性がやってきて、“F”を捜すよう半ば強引に依頼してくるところから物語は始まる。しかし、“M”は積極的に捜そうというわけでもなく、終始受け身の姿勢を貫く。そんな流れに身を任せるように生きる“M”と周囲の人間との交流が、“大人”なテイストでじわりとした苦みを感じさせてくれる。

そんな“大人”なテイストを感じさせる要因は、やはり阿部の受けの芝居だ。言葉少ないクールな役から偏屈なキャラクター、少し間の抜けた三枚目役まで、さまざまな役柄を演じてきた阿部だが、これまでのどの役柄とも違った“M”を好演。

リアルな人間らしさを追求

「すべて忘れてしまうから」第2話より(C) Moegara, FUSOSHA 2020


“M”は主人公にありがちな周りを巻き込むようなこだわりはなく、思ったことを飲み込む場面も多々あるなど、せりふ以外での感情表現が多い役であることに加え、編集者や飲み仲間、“F”といった周りの人間と会っている時の表情と、一人でいる時の表情がかすかに違って見せることで、“社会に属している自分”と“素である時の自分”を演じ分けている。

映像作品の登場人物を演じるというのは、どこかしらでキャラクターを立て、エンターテインメントの範疇(はんちゅう)での“人間”を表現するが、この“M”役ではあえてリアルな人間らしさを追求した芝居で、“大人”な視聴者に寄り添っている。