木村拓哉、50歳を迎えなお増す魅力とすごみ 酸いも甘いもかみ分けた今だからこその演技

“木村拓哉”の変化…憧れから共感の対象へ


一方で、木村が演じる主人公も時代とともに変化してきた。「BG〜身辺警護人〜」(2018年・2020年、テレビ朝日系)シリーズの島崎章や、「未来への10カウント」(2022年、同局)の桐沢祥吾など、近年は憧れの対象というよりも、同世代の視聴者から共感を得るような役柄も増えてきたのだ。

どちらの役にも共通するのが、一度大きな挫折を経験していること。島崎はもともと敏腕ボディーガードとして活躍していたが、クライアントのサッカー選手を守り切れず、その選手生命を絶ってしまったことから引退。警備会社の交通誘導員として働いていたが、新設された身辺警護課への異動を命じられ、渋々ではあるがボディーガードの仕事を再開する。

ただ、島崎はボディーガードと聞いて思い浮かべるような、クライアントを颯爽と守るヒーローとは少し違う。仕事中に体を痛めようものなら年下の同僚から“おっさん”呼ばわりされるし、クライアントからは時折罵声を浴びせられ、思春期の息子とはどう接していいかわからずにいる年相応の中年男性だ。そんな島崎を木村はコミカルに演じながらも、哀愁を漂わせた。「こんな木村拓哉、初めて見た!」と新鮮に感じた人も多いことだろう。

未来への10カウント」の桐沢もまた、高校時代に4冠達成を成し遂げた元アマチュアボクサーでありながら、病気で妻を亡くし、生気を失ったように日々を生きている。当初、桐沢からは人としての熱が一切感じられず、木村が本来持つオーラは消え失せていた。本作はそんな桐沢が母校のボクシング部のコーチに就任し、学生たちとの交流を通じて失われた熱を取り戻していく物語だ。

かつては圧倒的なスター力で物語の先頭を走っていた木村が、ここにきて誰かに手を引っ張られ、背中を押されて再び走り出す主人公を魅力的に演じ、視聴者の共感を集めている。

25年前とは違う信長像を体現?


そんな中、木村が主演を務める映画「レジェンド&バタフライ」は、大河ドラマ「どうする家康」(NHK総合)でも注目を集めている脚本家・古沢良太と、映画「るろうに剣心」シリーズなどの大友啓史監督がタッグを組み、織田信長(木村)とその妻・濃姫(綾瀬はるか)の人生を新たな視点で描く歴史超大作だ。

木村は本作で、“うつけ者”と呼ばれた16歳から命尽きる49歳までの信長の波乱万丈な人生を歩むこととなる。信長といえば、戦国時代を駆け抜けたカリスマ武将。かつて、木村はスペシャルドラマ「織田信長 天下を取ったバカ」(1998年、TBS)で信長を演じたことがあるが、25歳にして見事な貫禄を見せた。

一方で、信長は天下統一を果たせなかった男でもある。人生の酸いも甘いもかみ分けた、哀愁さえ漂う役どころも演じるようになった今だからこそ、25年前とは違う信長像を体現できるのではないだろうか。

芸歴35年を迎えた木村の新たな代表作になるであろう映画「レジェンド&バタフライ」は、1月27日(金)より全国の映画館で公開される。

■文/苫とり子