供花村に来てからも、自分の“正義”を盾にしてグイグイと踏み込んでいったりして、何か行動するたびに敵を増やしていった感がある。逆に言えば、そのグイグイと突き進む“無鉄砲さ”がなければ、村の闇の部分に迫ることはできなかったはず。「殺すぞ」「めんどくせぇな」など、警察官らしからぬセリフも多く、見る角度を変えると、どっちが正義なのか悪なのかも分からなくなりそうな威圧感があった。このような振り切れた役を演じられるのは柳楽しかいないんじゃないかと思わせるほど、ハマり役となっていた。
主人公に対抗するライバル、好敵手も物語には必要。それは後藤家の次期当主となる恵介。演じていた笠松は、恵介の“得体の知れない”感じをうまく表現していた。後藤家の男衆は、睦夫(酒向芳)や岩男(吉原光夫)をはじめ、武闘派がそろっている。その腕力に物を言わせる感じも相手を萎縮させる効果があるが、恵介の場合は他の後藤家の者とは違う雰囲気を醸し出していた。猟銃の銃口を大悟に向けて脅したりするシーンは序盤から出てくるが、無闇矢鱈と発砲したりするタイプではなく、思慮深さが感じられる。どこか俯瞰から見ている感じもあって、何を考えているのか分からない不気味さは最後の最後まで拭えなかった。普段の笠松の印象とのギャップを考えると、役者としての凄さを改めて感じさせてくれる。
やっかいな存在として大悟を、そして視聴者をイラつかせたのは、供花村のリーダー的存在“さぶ”を演じた梅雀の演技。恵介の場合、最初の印象が良くなかったので、そういう人物なんだなと頭で認識できていたが、さぶの場合は、赴任してきた阿川家の人間を率先して歓迎し、“早く村の一員に”という態度で接していただけに、一つボタンの掛け違えが起こると、元に戻すのがかなり困難になってくる。そんな人物だった。直接的な言葉で注意をするわけではないが、婉曲的な言葉で同調圧力をかけまくる。自分たちのことを差し置いて、大悟たちに“信頼”“信用”という言葉を盾にして“家の前に垣根を立てるな”“鍵はかけるな”ということを強いてくる。途中からは、阿川家に盗聴器を仕掛けたり、娘に対してDVをしていたり、かなり酷い部分が浮き彫りとなったが、ある意味、後藤家の者たち以上に疎ましい存在だったと言える。梅雀も温和そうな見た目から“いい人”の役が多い印象なので、その反動から“さぶ”への嫌悪感を抱いた視聴者も多かったのではないだろうか。
そして、供花村の闇の真相を暴くために必要だったキーパーソンたち。“人を喰ってる”ということを身をもって証明できる京介。子どもの頃に何者かに顔を喰われ、仮面の下の顔には大きな空洞が…。ビジュアル面での衝撃も大きいが、表に出ず、人の目を避けて生きてきた感を表現する高杉の演技にも驚かされた。口なども欠けているので、さ行がしゃべりにくい感じとか、“顔を喰われた人間”というのにリアリティーをもたらせていたのは俳優・高杉の技量によるもの。
来乃神神社の神山宗近もキーパーソンの一人。恵介とは幼なじみのような関係で、村の封数や伝統は“呪い”だと断言。聡明な人物で、冷静沈着なところからは“達観”しているようにも思える。それは“神主”という印象に引っ張られている部分もあると思うが。恵介に突っぱねられてしまったものの、正面から意見が言えるのは宗近だけだろう。俳優としての田中俊介は、作品ごとにその役にしっかり染まれるのが強み。「ガンニバル」の中では色の濃いキャラクターの中にあって、一人だけ独立した存在にも感じられた。
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