2022年12月に公開された映画「Dr.コトー診療所」のBlu-ray&DVDが7月21日にリリースされ、同時にデジタル配信もスタートした。2003年のテレビドラマ放送開始からちょうど20年の節目を迎えた2023年。“人間ドラマ=医療ドラマ”という新しい境地を開いた同作の魅力を、改めて振り返ってみたい。
同作は、累計発行部数1200万部を超える山田貴敏氏の同名漫画が原作。東京から僻地の離島に赴任してきた外科医“Dr.コトー”こと五島健助と島民の交流を描いている。2003年の放送開始から最高視聴率22.3%、2006年の続編では最高視聴率25.9%を記録する。
ドラマ放送から約16年の時を経て制作された映画版では、吉岡秀隆、柴咲コウ、時任三郎、大塚寧々、泉谷しげる、小林薫らドラマ版の出演者が続投。さらに高橋海斗(King & Prince)や元乃木坂46の生田絵梨花といった、話題性に富む新たなキャストも名を連ねた。
医療もののドラマといえば、人の生死がかかった現場ならではの緊迫したドラマ性、人の命を救うために日々奮闘する医者や看護師のキャラクターなどが注目されるジャンルだ。
たとえば米倉涼子が好演した大門未知子の「私、失敗しないので」という名ぜりふが社会現象を巻き起こした「ドクターX 〜外科医・大門未知子〜」。さらに記憶に新しいところでいえば、ワケあり患者の命を現金1億円と秘密保持契約、そして“チョコレート”を報酬に救う天才外科医チームの姿を描いた「Dr.チョコレート」が挙げられる。医療ドラマは、長年にわたって個性と魅力あふれる名作が生み出されている一大ジャンルといっても過言ではないだろう。
昨今話題になりやすいのは、こうした“特別有能で破天荒”な医者をメインに据えた作品が多い印象。主人公のキャラクターが強ければ印象に残りやすく、エンタメとしてもメリハリがつけやすいのかもしれない。しかし、「Dr.コトー診療所」は吉岡演じる五島健助の穏やかで分け隔てなく接する人柄と、島民との人情味あふれるやりとりが特色だ。
他とは異なる方向性を進んだかに見える「Dr.コトー」だが、実は後の医療ドラマに与えた影響は大きい。
「Dr.コトー」は、まず「患者との人間関係を作る」ところからが第一ステップだった。本土からフェリーで約6時間かかるこの絶海の孤島・志木那島に赴任してきたコトーは、過去のさまざまな経緯から赴任してくる医者を信用しない島民との軋轢に悩む。
毎日の往診や地道な努力の積み重ねによって、長い年月をかけて互いに信頼を寄せ合うようになっていく両者。コトーはたしかな腕を持つ名医だが、むちゃなこともしないし威張ることもしない。患者一人一人と真摯に向き合い、目の前の命を救うことに一生懸命だ。
子どもの虫垂炎を治療することで妻を医療ミスで亡くした男性から信頼を獲得し、危険な状態にある娘の出産を助けたことで父から感謝される…。そうした積み重ねを経て、「本土の医者よりも、コトー先生に執刀してもらいたい」と言ってもらえるまでに島民と絆を結んでいった。
毎日のように命の選択を迫られる凄絶なやりとりもなければ、大病院につきものの派閥闘争もない。しかし、人を救う医師ならではの変わらない悩み、患者がどういった人間であるかによって変わる向き合い方など、絶海の孤島で医師生活を送る五島にしか分からない人々の心の機微が毎回映し出されているのが、本ドラマの魅力だ。
都会や大きな組織が舞台でないからこそ、島民一人一人が背景に抱えるさまざまな事情にメスを入れ、コトーが医師として、一人の人間として真摯に対峙する姿を描く。派手な場面やシリアスな駆け引き、強烈なキャッチコピーなどとは無縁だが、真面目な医師と島民の間に生まれるあたたかな交流、さりげない日常こそがかけがえの無いドラマになることを証明している。
こうした人間ドラマ=医療ドラマという演出の妙は、後の医療ドラマにも散見できる。医者が救うのは体だけではなく、よりよく暮らしていける未来も含めて。“カッコよく難病の患者を救う医者”ではなく、“腕を尽くして一人の未来を拓く医者”の金字塔として、「Dr.コトー」の果たした役割は大きい。
7月21日にリリースされた豪華版Blu-ray・DVDには、特典として「公開記念特番『Dr.コトー診療所 16年ぶりの同窓会』」「スペシャル・メイキング『16年の月日とそれぞれの絆』」といった映像が収録される。色あせることのない「人間と人間が向き合う」医療ドラマの遺伝子は、これからの作品にも受け継がれていくに違いない。
※高橋海人の高は正しくは「はしご高」
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