現在放送中の連続ドラマ「パリピ孔明」(毎週水曜夜10:00-10:54、フジテレビ系)。三国志で有名な軍師・諸葛亮孔明を演じるのが、俳優の向井理だ。そのキャリアを振り返りながら、どんな役も魅力的でハマる理由を考察する。
「パリピ孔明」は、「ヤングマガジン」(講談社)で連載中の人気同名漫画(原作・四葉夕卜、作画・小川亮)を原作とした青春音楽コメディ。魏・呉・蜀が天下の覇権争いをしていた中国三国時代、蜀漢の天才軍師として活躍していた諸葛亮孔明(向井理)が現代の渋谷に転生してくるところからストーリーは展開される。
走り出しから奇想天外だが、そんな孔明が時代や場所を超えて再び天下統一を目指すという展開が面白い。しかも、その手段がまさかの音楽。ライブハウス「BBラウンジ」でバイトをしながらプロのシンガーを目指す月見英子(上白石萌歌)の歌声に魅了された孔明は、彼女の軍師=マネージャーとなり、音楽で太平の世を作るために奮闘するのである。
主演を務める向井は24歳の頃、スカウトをきっかけに芸能界入り。当時、向井はバーテンダーとして働いており、「パリピ孔明」第1話では孔明がカクテルを作る場面でその見事な腕前を披露した。
大学時代は遺伝子工学を専攻していたようで、知的で硬派なイメージのある向井。仕事ができる“理想の上司”役はそんな向井の代名詞ともいえ、特に「わたし、定時で帰ります。」(TBS系)で演じた種田晃太郎が忘れられないという人も多いのではないだろうか。
種田はウェブ制作会社にヘッドハンティングされ、元婚約者であるヒロイン・東山結衣(吉高由里子)の上司となる役柄。多くを語らず、スマートに結衣や部下をサポートする姿は向井だからこそ様になり、多くの女性視聴者を虜に。「着飾る恋には理由があって」(TBS系)や「悪女(わる)〜働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?〜」(日本テレビ系)でも同様にヒロイン憧れの“しごでき”上司を体現した。
一方、向井は本人のイメージとは正反対の役も難なくこなしてきた。ブレイクのきっかけとなった「のだめカンタービレ」(フジテレビ系)では、短髪にメガネで一見真面目そうだが、実は女たらしのチェリスト・菊地亨役を好演。漫画だからこそ成り立ちそうな特殊キャラを実写で違和感なく演じられるのも向井のなせる技だ。
少々チャラついた役でいえば、「アタシんちの男子」(フジテレビ系)で演じた大蔵翔もハマっていた。翔は主人公・峯田千里(堀北真希)の養子となる6人兄弟の三男で、NO.1ホスト。話が上手で性格も明るいが、翔は孤児院で育ったという複雑な過去を抱えている。お金への執着が強いのもそのためで、ふとした瞬間に外面からは想像もつかない内面の豊かさが見えてくるのだ。
「先生のおとりよせ」(テレビ東京)では、お取り寄せグルメをこよなく愛する官能小説家の榎村遥華を演じた向井。無愛想で偏屈な変わり者を憑依させる向井のコミカルな演技にくすりとなる一方、幼少期を寂しく過ごした榎村がたまに見せる憂いを帯びた表情に母性本能をくすぐられた人も多いことだろう。
これまでどんな人生を歩み、どういう思いで日々を生きているのか。そういったことはいちいち口には出さず、何枚か皮を被った状態で他人と接しているのが人間だ。けれど、そこにその人の本質があって、たまに垣間見えると嬉しくなる。向井が演じる役がどれも奥深く魅力的なのは、彼がその役の本質=核となる部分をしっかりと掴んでいるからだ。
そんな向井が演じる諸葛亮孔明は、全世界で愛される歴史コンテンツ「三国志」の中でも最も有名で、なおかつ人気のある英雄。「信長協奏曲」(フジテレビ系)では織田信長の側近・池田恒興、NHK大河ドラマ「江〜姫たちの戦国〜」では江戸幕府2代将軍・徳川秀忠、「麒麟がくる」では室町幕府13代将軍・足利義輝と、これまで多数の歴史上の人物を演じてきた向井だが、中国の偉人役はさすがに初めてだ。
とはいえ、本作における孔明は転生者でなぜか日本語も喋れるので、本来ならば色々とツッコミの声が挙がりそうなもの。なのに、向井が演じる孔明には有無を言わせぬ説得力がある。蜀漢の初代皇帝・劉備に見出された軍師としての才を大いに振るい、その優れた人格からも多くの仲間に慕われて62年の生涯に幕を閉じた孔明。そんな彼の生き様が、向井の佇まいや口ぶりに滲み出ているからだろう。歴史の中の孔明像を向井が本気で体現してくれているからこそ、現代人の感覚からすると少々ズレている言動が面白おかしく思える。
英子の歌声で民草の心を癒し、劉備とかつて約束した「天下泰平の世を作る」という夢を孔明は現代で叶えることができるのか。引き続き、向井の演技にも注目しながら物語を追っていきたいところ。また現在、民放公式テレビ配信サービス「TVer(ティバー)」では「パリピ孔明」の最新話+1~3話までを配信中。まだ視聴できていない人は、ここで一気に追いつこう。
■文/苫とり子
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