――横浜さんとは、何度もタッグを組まれていますね。
実はこの映画が流星との1番最初の作品になるはずだったんです。 広告やミュージックビデオなどを、それまでは一緒にやっていたのですが、初長編映画は「正体」がいいねって話していて。じゃあやろうっていう風になったのが4年前ぐらい前で、作品進行の流れから順番が変わってしまいましたが、「新聞記者」(Netflix)のドラマのクランクインや「ヴィレッジ」(2023年)よりも前だったんです。
ただ、本当に今撮れてよかったなと思うのは、 最終形態に近いぐらい、お互いをほとんど知り尽くしていることです。今回は死刑囚が逃亡するという話なのですが、横浜流星七変化じゃないですけれども、彼が様々な形、格好、人格を変えていろんな人に会っていくという。
なので本当に全部の流星が見れますし、その1つ1つのその精度というか、 その人間になりきる力が圧倒的にすごくなっていて、今回は楽しく撮らせてもらっています。周りが、「横浜流星すごい!」ってモニターを見てなってくれているのを見て、「知ってる知ってる!」という思いでいつも見ています(笑)。
――横浜さん演じるベンゾーが出会う、野々村和也を演じる森本慎太郎さん、刑事の又貫征吾を演じた山田孝之さん、お二人のキャスティングの経緯ついて教えてください。
森本くんはプロデューサーチームとも相談しました。「藤井組はいつも同じ(人が出演している)よね」と言われることが多々ありまして(笑)。でもやはり、新しい俳優と出会いたいなっていう欲望はすごくあるんです。
森本くんの演技をちゃんと拝見したことがなかったのですが、その時にちょうど「だが、情熱はある」(2023年、日本テレビ系)で山里亮太さんの役を森本くんが演じていて。すごいトリッキーなんですけど、テクニックもあって、面白い俳優だなと思って声をかけました。
多分僕の演出が、森本くんが今まで正しいと思ってやってきたこととはかなり違って、最初は苦労していたと思います。もう今は和也推しのスタッフが中にもいるぐらい、人間らしくて本当にいい芝居をしてくれる俳優だなって思っています。
山田さんに関しては、僕にとっては映画人の中でとても緊張する方なんです。又貫は、鏑木という人物の正体はなんなんだっていうのを、お客さんと同じ目線で追っていて、その役はやはり自分の中で最大のリスペクトのある山田さんにお願いしたいなと。ダメ元でカフェで待ち合わせてオファーをしました。
今でも山田さんを現場で演出する時はとても緊張します。ただ、本当にかっこいいです。なので今回又貫を山田さんに演じてもらえて、1つ夢が叶ったような気持ちです。
――今回撮影していた接見室のシーンはかなり見ごたえがありました。たくさん森本さんや横浜さんなどとコミュニケーションをとりながら撮影を進められていましたね。
森本くんは、和也を演じるのが半年ぶりだったんです。また和也は鏑木と長い時間会っておらず、久しぶりの再会となります。なので、鏑木はなんで足を引きずっているんだろうとか、その間に鏑木がどんな辛い思いで逃げてきたんだろうとか、そこに対しての感情はもっともっとあると思うよ、などと話していました。
他にも、瞬きや、眉毛の動きなどについても丁寧に1個1個修正していきました。最後に、すごくいい芝居をしてくれてうれしかったですね。
実は、流星にだけは演出のアプローチが全く違っていて、他の方には感情の話を中心にしますが、流星にはそこはもう終わっているので、「いま横で何ミリだから、その表現じゃ伝わらないよ」など、テクニカルな話ができているんです。それができるのは流星だけです。
――山田さんはセットに戻ってくる際に、映らない場面でも接見室のドアを開けてから、席についているのがすごく印象的でした。
山田さんは絶対そうしますね。病院のシーンなどでも、セリフからいきなり始まる時もあるんです。そういう時もやっぱり扉から入ってきてというのを何回も何回も繰り返して、自分が気持ち悪くない体制や、テンションだったりを作っています。
――最後に、映画「正体」を楽しみにされている方々に一言お願いいたします。
1番状態が良くて脂がのっている時期に最高のエンタメを作れていると思っています。僕と流星でヒット作というものはまだなくて、「これは観た方がいいよね、すごく面白いから」と言われるようなものを作れている自信があります。