直木賞作家・角田光代の同名長編小説を初音映莉子・高良健吾の共演で実写映画化し、10月7日にテアトル新宿ほかで全国公開を迎えた「月と雷」。
本作で、世話をしてくれる男性を見つけては、男性から男性へと各地を流転する、智(高良)の母・直子を演じる、草刈民代にインタビューを行った。
自由奔放のようでいて深い孤独を漂わせる直子役の草刈に、本作の撮影エピソードや、演じた直子の印象、そしてリラックス方法などについて語ってもらった。
――直子役のオファーが来た時の感想は?
どういう意図で私に声を掛けてくれたのか。難しい役だと思ったので、まずはそれを聞きたいなと思いました。安藤(尋)監督からは、役柄の背景やいろいろな物を背負って画面に映れる人は草刈さんしかいませんと言っていただいて。
私はずっと舞台で踊ってきた人間なので、もしかしたら役者さんをやり続けてこられた方たちとは違う佇まいを感じ取ってくださったのかなと。その監督が、私に直子役をと思ってくださっているのならできるかもしれないと思い、お引き受けしました。
――役を作っていく上で、ご自身からもアイデアを?
髪の毛を染めて、煙草とお酒を手放さない人という設定にしてもらいました。普段の私自身が見えたら失敗ですから。そういう分かりやすいものがないと、直子に見えないんじゃないかなと思いました。歩き方も佇まいも全部変えて臨みましたね。
――直子はどんな女性だと捉えていますか?
私が直感的に見いだしたことは、たぶん人は誰でもこうなるかもしれない要素があるなと。生まれた場所や育った環境が違ったら直子みたいになるかもしれない。
私の中の直子は、ある意味全部受け入れて生きている感じの女性というイメージ。そんな生き方をしていたら絶対許容範囲を越しちゃうと思うんですよ。だからこそ、常にお酒を飲んでいないと耐えられない。
どこか自分と対面することを拒否しているところがあるのかも。生き続けていくことだけに意志を持って、他のことには全く意志がないような気がします。
――そばにいる男性が持っていた婚姻届を見た時の反応も印象的です。
そうですよね。結婚するのなんて嫌だと、男性の前から逃げちゃったり(笑)。これ以上、一緒にはいられないと思ったら家を出てしまう。私みたいに仕事で何か極めたいことがあったら、こうすればいいのかなって考えたりすると思うんですけど、直子はそれが一切ない人。そういう世界の中で生きている“ある形”のような女性なんでしょうね。
――角田光代さんの原作については?
原作は、もっと詳細に人物が描かれていますよね。直子は映画よりも年上の設定だし、体もお酒でかなりボロボロ(笑)。これをそのまま描くとビジュアル的にきついかなと思いました。なので、映像的に一番伝わりやすくて、見ている方が嫌悪感を覚えずに感情移入できるようなラインを決めて演じることを心掛けました。
あとは、そのさじ加減の中で監督がどういう目盛りを持っているのか。台本を読んだ時は、脚本家の本調(有香)さんが、原作のどこをどう読んでこういう形にしたのかなという興味もありましたね。
――映画を拝見させていただいて、直子はちょうどいい“やさぐれ感”だったような気がします。
いき過ぎは良くないですよね。「私はこんなふうにやさぐれ感を出しています」って見えてしまったら駄目。でも、足らなくてもいけないんです。
まずは、自分なりにMAXでやってみて、直子というキャラクターの根っこの部分を理解することが大事。その上で、彼女の一言一言に対してなぜそういうことを言うのか、裏付けをちゃんと見つけながら演じようと思いました。
――同性から見て、直子のような生き方をどう思いますか?
普通の人は直子のように生きていけないと思います。やっぱり人は安定を求めるはずなので。今回、直子を演じながら感じたのは、いろいろな意味で太くて強い女性だなと。周りからどう見られているか、という考えは直子の中に全くないんです。
それは、心の強さなのか、それとも神経が図太いのか。そういう雰囲気も出さないといけないから難しかったですね。
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