【テレビの開拓者たち / 植田博樹】「地上波のテレビでもできるし、ネットで見ても面白い、というドラマを作るのが理想」

2018/03/26 22:00 配信

芸能一般

「SICK'S」は、“朝ドラ”的な作り方を意識しています


4月1日(日)より「Paravi」で配信される「SPECサーガ完結篇『SICK'S 恕乃抄』―」のポスター。警視庁内閣情報調査室に配属された“特務”たちの活躍を描く(c)TBS


──今回はネット配信の作品ですが、テレビドラマとの作り方の違いはありましたか。

「地上波の連ドラの場合、各エピソードを丸々1本見てもらう前提で作っているので、前半で伏線を張って後半で回収する、といったことをやるんですけど、今回はネット配信ということで、短い尺の中にも起承転結があって、満足感が得られるような作りを意識しています。いわば“朝ドラ”的な作り方というか。まぁネットに限らず、最近のTBSでは、伊與田(英徳/プロデューサー)や福澤(克雄/監督)の連ドラは、朝ドラ的ではあるんですけどね。

今回は他にも、『配信のドラマは、客をつかむために第1話に全予算の半分を注ぎ込んでるらしい』なんて業界の裏話を聞いて、参考にしたりしていて。まるで、黒船がやってきて『メリケン(アメリカ)ではこんな風にやってるらしいぞ』とか言ってる薩長の田舎侍みたいな感じで作ってますね(笑)」

──やはりネット配信に対しては、“黒船”という印象がありますか?

「いや、そこまでではないかな。僕自身は会社が許してくれるなら、Amazonだろうが、Netflixだろうが、チャンスをいただけるならやりたいですし。ただ、今回はTBSの内部でやれるし、初対面の人たちと作るよりは、『メリケンでは…』なんて言いながら、気心の知れた薩長の仲間たちで作る方が楽しい、というのはありますよね。

あと、地上波では、コンプライアンス面のルールやノウハウの蓄積がありますが、ネットはその辺が未整備な分、黎明期の面白さや自由さは感じます。だから『SICK’S』でも、地上波だったらちょっと眉をひそめられるような表現も、昔のテレビのやんちゃさや、いい意味での行儀の悪さは出せるかなと思っていて。特に堤さんの場合は、最初からモザイクをかけることを想定して撮ったりしてますからね(笑)」

──ちなみに、植田さんにとって「ケイゾク」という作品は、一時期、編成部に移られた後、制作部に復帰して初のプロデュース作でしたね。

「編成部では、僕が初めてプロデュースした『総理大臣誘拐される』(1991年TBS系)で脚本を書いていただいた蒔田光治さんと一緒に、『Y氏の隣人』(1998年TBS系)という作品を作ったんですが、当時の上司から、『蒔田さんと親しいなら、うちでも、日テレの土曜9時の「金田一少年の事件簿」(1995年日本テレビ系)とか、「銀狼怪奇ファイル」(1996年日本テレビ系)みたいなドラマをやってもらおうよ』と言われて、蒔田さんに相談に行ったんです。そしたら、『TBSの中には、あの映像を撮れる監督はいない』と言われてしまって。そこで堤さんを紹介されたのが、『ケイゾク』の企画がスタートしたきっかけです。当時は何の実績もないプロデューサーでしたけど、各プロダクションに、『監督は堤さんです! 脚本は「ダブル・キッチン」(1993年TBS系)の西荻さんが書きます!』ということで交渉に行って。結果、名刺代わりの作品ができたと思っています」

──当時を振り返ると、「ケイゾク」の植田さんと、「池袋ウエストゲートパーク」(2000年TBS)の磯山晶プロデューサーという、TBSの2人のプロデューサーが、ドラマ界に新しい風を吹き込んだような印象があります。

「磯山の『池袋』もそうですけど、それまでのTBSのドラマ作りのフォーマットを大きく変えたとは思いますね。スタジオ2日、ロケとリハで3日みたいな、それまで何十年も続いてきたクラシックな撮り方ではなく、オールロケで、編集室を3カ月押さえっぱなしにして編集し続けるとか、音楽も、劇伴をそのまま使うのでなく、コンピューターに取り込んで音の要素だけを使うとか。『JIN-仁-』(2009年TBS系)も、音楽は『ケイゾク』のチームが担当しましたし、その後のTBSのドラマは、当時のチームの分派が作ってるものが多い。『ケイゾク』や『池袋』で始めたドラマ作りのノウハウは、今のTBSドラマに着実に受け継がれていると思いますね」