物語は“革命編”へと突入し、一段と盛り上がりを見せる大河ドラマ「西郷どん」(NHK総合ほか)。制作統括を手掛ける櫻井賢氏に、本作に対する思い入れやこだわり、さらに、自身のターニングポイントになったという連続テレビ小説「マッサン」(2014~2015年NHK総合ほか)など、これまでの作品づくりについても聞いた。
──「西郷どん」の“島編”は3週間にわたるロケが話題になりました。
「やり過ぎたという声もありますが(笑)、行って良かったなと思いますね。かつて実際に西郷隆盛が暮らしていて、今も西郷さんを愛している人たちが支援してくれるあの場所で撮影することができたことの凄味を、スタッフもキャストも味わうことができました。
(原作者の)林真理子さんが、『島での暮らしを描かないと西郷さんを描いたことにならない』と常々おっしゃっていて、この“島編”は当初からの企画のポイントでした。確かに、西郷吉之助が後に西郷隆盛になり得たのは、奄美大島に潜居して、5年も干されていたあの時期を経て、ほかの人とは違う視野を持てたということもあると思うんです。でも何よりこの“島編”は、美術スタッフをはじめとする制作陣がいたからこそ成立したと考えています。言ってみれば僕は、『じゃあ、島に行っちゃおうか』くらいの感じでGOサインを出しただけですから(笑)。(吉之助役の)鈴木亮平さんも今、スタジオで撮影していると『島に戻りたいなぁ』なんて言ってますよ。撮影中の記憶が、人物を演じる上での気持ちの“骨”になるというのは、長期間のドラマならではの醍醐味でもあるので、亮平さんにとっても、“島編”を丁寧に描いたことはとても有意義なことだったと思っています」
──林真理子さんの小説を原作にしながらも、ドラマなりの脚色もされていますね。
「小説は読む人の想像力で作品の世界に入っていけますが、ドラマの場合は映像で見せないといけないので、史実では書簡でしかやりとりをしていなかった人物同士を、実際に会わせたりしています。お互いの思いのぶつかり合いは、手紙のやりとりではなく、役者さん同士が対面で演じたほうが、やはり視聴者に届くだろうと思って。
あとは例えば、瑛太さん演じる大久保一蔵(※後の利通)が、島までやって来て『西郷を返してくれ』と直訴していたり…実際は島には渡ってないんですけどね。一橋慶喜(松田翔太)も、おそらく下級武士と顔を合わせることはなかったと思うんですが、今後最大の敵になっていくためには、やっぱり直接会わせよう、ということになりました。
当然、史実と違うというご指摘も少なくないんですが、その史実の核心を分かっていただくためには、史実に忠実にストイックに描くよりも、フィクションという独特の切り口を使って、興味を持って見てもらうことも必要なんじゃないかと。おかげで、今まで大河ドラマを見たことがないような若い世代も含めて、多くの方々に興味を抱いていただけているのはうれしいですね」
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