そして、多くの人を困惑させ、釘付けにさせたのが、松江哲明・山下敦弘と組んだドキュメンタリードラマだろう。2015年には、清野とおるの「東京都北区赤羽」「ウヒョッ! 東京都北区赤羽」を“原作”にした「山田孝之の東京都北区赤羽」、2017年には「山田孝之のカンヌ映画祭」(共にテレビ東京ほか)が放送。前者は清野の漫画に感銘を受けた山田が、実際に赤羽に“移住”し、そこで出会った人々との交流などを記録したもの、後者は、山田が“作り手”としてカンヌ映画祭の映画賞を獲るために奮闘する様を描いたもの。どこまでが本当で、どこからが作ったものなのか、まったくわからない、視聴者も何を見せられているのか、わけがわからない強烈な作品だった。
こうして振り返ると、山田は2010年代の「深夜ドラマ」という概念そのものをつくった一人であると言っても過言ではないだろう。単に色々な役になりきる「カメレオン俳優」とは違う。そこには「山田孝之」という不可解な存在感が必ず漂っている。
俳優は仕事柄、どうしても受け身になりがちだが、「仕事は選んでいるのか」と問われ「どう言っていいのか……めちゃくちゃ選んでますね(笑)」(「21世紀深夜ドラマ読本」)というように、極めて主体的。知名度という武器を最大限利用して、やりたいことを実現するということに自覚的だ。
最近では「女性300人のバスト計測」などというイベントをやったりもする。プライムタイムという早めの時間帯の連続ドラマにメインキャストとして久々に出演している「dele」(テレビ朝日系)も内面が見えづらくとらえどころのない役柄だ。何より、このドラマは山田&菅田将暉&麻生久美子というドラマファン垂涎の組み合わせはもとより、ゲスト陣が、作家の高橋源一郎や映画監督の塚本晋也、声優の大塚明夫、ミュージシャンのコムアイ、野田洋次郎、Mummy-D、般若……と異色の顔ぶれ。何が起こるかわからない“見たことのないドラマ”を作ろうという気概に溢れている。
山田孝之は、どんなことになるか「わからない」方向へ自ら飛び込んでいく。だからこそ、彼は「わからない」存在のまま、魅力的なのだ。
(文・てれびのスキマ)
◆てれびのスキマ=本名:戸部田誠(とべた・まこと) 1978年生まれ。テレビっ子。ライター。著書に『1989年のテレビっ子』『タモリ学』『笑福亭鶴瓶論』など多数。雑誌「週刊文春」「週刊SPA!」、WEBメディア「日刊サイゾー」「cakes」などでテレビに関する連載も多数。2017年より「月刊ザテレビジョン」にて、人気・話題の芸能人について考察する新連載「芸能百花」がスタート
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)