今回発表する8人の俳優の皆さんは圧倒的な存在感を誇る方々ばかりで、「その方にお願いする意味」が明確にあり、作品の意義や山崎豊子作品というスケールに共感してくれた猛者たちである。
中村雅俊さんと仲村トオルさんは、時代は違うがどちらも青春ドラマを牽引してきた大ベテランである。
今回の青春群像劇を彩るには必要不可欠だと考えた。横山教授という敗戦国の学者でありながらアメリカに対して思うところを押し殺し、賢治に接する懐の深さを表現できるのは中村雅俊しかいないと思っていた。
松井社長という賢治の人格のベースとなる思想を創り上げるまっすぐな情熱というものを表現できるのは仲村トオルだと直感していた。
柄本佑さんはビシッと芯の通った俳優だ。私はドキュメンタリーで一緒にミャンマーに旅をしてそれを身に染みて知っている。池島の「かたくなさ」を「人間の負の部分」としてではない表現として見せられるのは柄本佑だと確信していた。
甲本雅裕さんや田中哲司さんはバイプレイヤーとしてあらゆる作品に引っ張りだこだが、今回のように「表向き=建前」と「心の中=本音」を演技で表現することができる稀有な俳優だ。
倉石医師も横山教授と同じようにアメリカには思うところがある。それを医師という「職業」の仮面に隠す甲本雅裕の演技を見たいと思った。
オーソン相川はアメリカ人社会で成功した日系二世としての誇りを強く持っている人物だ。「きみも私のように振舞えば成功する」と賢治を揺さぶってくる。その賢治との心理戦での田中哲司は圧巻に違いないと感じていた。
余貴美子さんは強い女性の役が秀逸だ。しかし強いだけではない。情けや温かさといった「温情」が上手い。鷹には余貴美子しか思い浮かばなかった。
泉谷しげるさんの演技には「愛」がある。表面的ではない「下町的な」深さというか、心に訴えかける強さだ。だが万作は一癖も二癖もある父親。愛情の裏返しがどんな感じになるのか、泉谷しげる節を期待した。
リリー・フランキーさんはご存知の通り、強烈なキャラクターの役が多い。しかし、今回の広田弘毅はほとんどしゃべらない。寡黙で表情一つで気持ちを表現する役だ。本来、リリー・フランキーとはそのような表現者ではないのか。私は常々そう思っていた。
皆さん、主役級の方々ばかりであるが、今回のキャスティングの妙は、以上のようにそれぞれの俳優にこの役をやってもらう適材適所の意味があり、それらを十分に理解した上で彼らは作品に参加することを決めてくれたことである。
それだけに現場の熱量は半端なかった。一人一人の猛者たちが、他の演者とぶつかり合い、そしてコラボレーションしてゆくという素晴らしい化学反応が生まれた。
視聴者の皆さんが私のキャスティングの理由を知った上でリアルタイムにこのドラマを見ていただくと、8人の猛者たちの一挙一動が存分に楽しめることだろう。
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