――そんな岡田さんが演じる財前五郎には、どのような魅力がありますか?
恨みがましくなく、終盤では優しい目つきになる。最初は、野心の象徴のようにニヤっと笑っていたのですが、徐々に優しくなっていって、心底優しい笑顔を作っていましたね。
教授選挙が終わり、結果がどうなったかを財前が見に来るシーンでは、ただ廊下を歩くだけなのに、すごく“呆(ほう)けた”表情を見せていた。僕はびっくりしました。闊達(かったつ)に歩いてきたような気がしていたけれど、本当は呆けていた。これほどまでに財前は幼い顔をして結果を待っていたんだ、と驚かされましたよ。
そもそも財前という男は、昭和の温もりが残る岡山で天才少年として育ち、周囲の人間たちのサポートを受けながら浪速大学に入った。それでも教授にのし上がるには膨大なお金が掛かるから、名誉欲にとらわれた財前又一(小林薫)から婿になれと言われてうっかり引き受けてしまうんです。
サイコロばくちみたいなものをやっている財前は、母・キヌ(市毛良枝)や又一、妻の杏子(夏帆)、ケイ子(沢尻エリカ)らに対して、褒められたくて頑張っている。時代が変わって、医療器具などもどんどん進化していく中、財前は神がかったようにその全部を習得していく。認められたいという一心で。それはもう“病”みたいなものです。
――財前のライバル・里見を演じる松山ケンイチさんについてはいかがですか?
岡田さんは寡黙で、芝居を始めると冗舌になる。松山さんは逆で、普段は冗舌で、僕の悩みなんかを聞いてくれるのですが、芝居になると一転、寡黙になる。そのバランスが非常に良かった。
今はどんどん主役が若返ってきています。僕は志村喬さんや宮口精二さん、三國連太郎さんたちをずっと撮ってきましたが…今度は岡田さんや松山さんを戦友にして、また何本かやりたいという意欲がいっぱい出てきましたね。今回も仕上げのたびに映像を何百回も見ていましたが、まるで宝物を見ているような、宝庫の中にいるような気持ちになりました。
――財前を取り囲む女性キャストについてはどのような印象がありますか?
沢尻さんが演じるケイ子は怖いよね。財前が上り詰めていくときは応援するけど、それが下がっていくとつまらなくて情がないと思う女性。都合のいい女という訳ではないんです。でも、ケイ子のような女性がこれからの“令和”を引っ張っていくんだろう。あと、杏子役の夏帆さん。実は、夏が苗字で、帆が名前だと思っていて…(笑)。現場で「夏(か)さん」と言っても、「帆(ほ)さん」と呼んでも来なかった。岡田さんから「夏が苗字で、帆が名前ですよ」と言われて、まんまとだまされてしまいました(苦笑)。それと、(飯豊)まりえさんも、皆さんすてきな方ばかりです。
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