半沢直樹だけじゃない! 池井戸潤原作『七つの会議』八角民夫(野村萬斎)の“倍返し”<ザテレビジョンシネマ部>

2019/12/03 07:00 配信

映画

【写真を見る】「グランメゾン東京」で話題の朝倉あきが“探偵役”のOL・優衣で出演 (C)2019 映画「七つの会議」製作委員会


半沢直樹』をきっかけに社会現象ともなった“屈辱の土下座シーン”や「倍返しだ!」といった決めゼリフこそないものの、『七つの会議』で野村萬斎が演じる八角は、無精ひげで喪服のような黒いスーツを身にまとい、人を食ったような態度で社内をかき乱す。入社当初は誰もが一目置く敏腕営業マンとしてその名をとどろかせてきた男が、グータラ社員を装いながら、20年もの間、牙を研ぎ続けている理由とは……。

悪人とも善人とも判断がつかない独特のたたずまいの“萬斎版・八角”が、よもや『半沢直樹』にも負けず劣らずのアツい情熱を内にたぎらせているとは、観る人誰もが思うまい。八角は他のドラマで登場する、明快な池井戸作品のヒーロー像とはひと味もふた味も違う曲者だが、「ここに名物キャラあり!」と思わず喧伝したくなる魅力が彼にも間違いなくある。その最たるものが「イッヒッヒ」という八角特有の笑い方。これぞまさしく、伝統芸能と舞台、映像の分野を自在に行き来する、野村萬斎ならではの“奥義”とも言うべき技なのだ。

エンディングを彩る“ロックの神様”ことボブ・ディランの名バラード「メイク・ユー・フィール・マイ・ラヴ」は、さながら闘い終わった企業戦士たちへの鎮魂歌というべき役割を果たしている。勧善懲悪の池井戸作品でお馴染みなパターンを踏襲しながらも、どこか煮え切らない思いに駆られてしまうのは、たとえ映画で不正が明らかになったとしても、“日本全体が抱える矛盾や闇が完全には消え去ることがない”という現実に直面させられるからに違いない。

文=渡邊玲子


インタビュアー・ライター。「DVD&動画配信でーた」「キネマ旬報」「nippon.com」などでインタビュー記事やレビューを執筆中。国内外の映画監督や役者が発する言葉に必死で耳を傾ける日々。