――そんな表の顔と裏の顔を持つブラックマスクを演じる上で、心掛けたことはありますか。
森川智之:裏の顔、つまり、人間の悪の部分って、実は意外と演じやすいんです。演じ方が分かりやすい、というか。ユアンもおそらく、楽しんで演じてると思うんですけど(笑)。それよりも難しいのは、普段の表の顔を演じるときに、単なる善人ではなく、どこかに「こいつは裏の顔を持っているんだ」と感じさせるように演じなければならない、ということ。そうでないと、“1+1=2”みたいな、単純で薄っぺらな演技になってしまいますから。だから、表の顔のときの微妙なニュアンスを大事にしながら演じました。
――では、森川さんから見た“俳優、ユアン・マクレガー”の魅力は?
森川:月並みな表現になってしまいますが、やはり演技の素晴らしさですね。それは、他の誰も持ちえない、ユアン・マクレガーという人間の天賦の才能だと思います。なかでも、笑顔と笑い声がとても素敵なんですよ。非常にチャーミングで、しかもすごく自然なんですよね。
――何度も演じられているだけあって、ユアンの演技と森川さんの声の演技は、息がぴったり合っていますよね。
森川:オビ=ワン・ケノービの吹き替えは、海外オーディションで選んでいただいたんですが、そのオーディションでは、自然に演じることに重きを置いていたのか、科学的に声紋が似ている人を選んだらしくて。グラフで見ると、僕の声って、ユアンの声と波長がそっくりらしいんですよ。ですから、実際、ユアンはすごく声を当てやすい。今回も、ユアンの芝居と自分の芝居の呼吸がシンクロしていくのが感じられて、とても楽しかったですね。
――森川さんは、ユアン・マクレガー以外にも、トム・クルーズ、キアヌ・リーブスといった海外の俳優の吹き替えも数多く担当されています。また一方で、「クレヨンしんちゃん」(テレビ朝日系)のお父さん・ひろし、「犬夜叉」(2000~2004年・2009~2010年、日本テレビ系)の奈落など、アニメーションでもたくさんのキャラクターを演じられています。実写とアニメでは、演じ方の違いはあるのでしょうか?
森川:アニメーションは、何もないところからゼロベースで、みんなと一緒に作っていくもの。また、2次元の世界ですから、声の演技だけで奥行きを表現しないといけない。その点、実写作品は、もともと生身の人間が演じていますから、吹き替えをするときは、声で奥行きを表現するというよりも、演者が表現している奥行きを感じながら声を発していく、という作業なんです。
あとは、演技の質も違うかもしれませんね。アニメというのは、カットが替わると突然怒っていたり、泣いていたり、ということは珍しくないので(笑)、それに対応できる反射神経がすごく大事だったりするんですね。でも実写の場合は、物語に合わせて感情が動いていくから、芝居の呼吸の流れがすごく大切で。演じている役者さんと同等の演技力が必要になってくるんです。だから僕は、実写の吹き替えの仕事が決まったら、とにかく事前に作品を何度も見て、その辺りをちゃんと理解した上で、収録に臨むようにしています。
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