<西野亮廣>ゴミ人間〜『えんとつ町のプペル』誕生の背景と込めた想い〜「博多大吉がキンコン西野に懸けた『期待』」【短期集中連載/第3回】

2020/09/07 17:00 配信

芸能一般

このままでは日本に帰れない


クラウドファンディングは今でこそ一般化しましたが、当時は誰も知らなくて、企画開始と同時に「宗教活動」「ネット乞食」といった言葉をたくさん浴びました。僕だけじゃなくて、僕に支援してくださった人まで攻撃されました。「西野に騙されている」「西野信者」「目を覚ませ」と散々。

人はいつも、自分が知らないものを嫌います。調べようともしません。「知らない自分」を認めたくないのかもしれません。

そんな状況なので、ツイッターで呼びかけたところで、誰からも相手にされません。どれだけ網を投げてもスルーされてしまうので、僕は網を捨て、「モリ」に持ちかえました。1万人に網を投げるのではなく、一人ずつモリで突き刺す作業を1万回繰り返すことにしたのです。

自分の名前で検索をかけ、僕についてツイートしてくださっている方(一人一人)とコンタクトをとり、「突然すみません。キングコングの西野亮廣と申します。実は、この度、クラウドファンディングというものに挑戦し…」という説明を何度も繰り返しました。

朝から晩までツイッターにヘバリついて、お相手の方の疑問には全て答え、2週間で700名以上の方とやりとりさせていただきました。お叱りの言葉もたくさん頂戴しましたし、心無い言葉もたくさん浴びました。

その甲斐もあって、2週間で585名の方から、531万1100円ものご支援をいただくことができました。西野を応援することにリスクしかない中、「行ってこい」と背中を押してくださった皆様には今も感謝しかありません。すぐ近くで支えてくれたスタッフには、今後の人生をかけて恩返ししていきます。

なんとか予算は集まりましたが、今度は、あと2週間で「集客」の問題をクリアしなければなりません。宣伝を手伝ってくれる現地メディアの知り合いもいませんし、そもそも、たいした結果も出ていない日本の絵本作家の個展に、誰が足を運んでくれるというのでしょう。ここでもやはり、一人一人頭を下げて、お願いするしかありません。

「ニューヨーク 寒い」「ニューヨーク 美味しい」「ニューヨーク 混んでいる」でエゴサーチをかけ、今現在、ニューヨークにいらっしゃる方をリストアップし、片っ端から「初めまして、キングコングの西野亮廣と申します。実は、この度、ニューヨークで個展を開催する運びとなり…」とコンタクトをとらせていただきました。こちらも2週間で700〜800名ほど。とほほ。

日本を発つ日までにやれることは全てやり、やっとの思いでニューヨークの個展がスタートします。が、オープンして30分が経ってもお客さんは一人も来ません。1時間経っても、1時間半経っても……誰一人としてギャラリーの中に入って来ません。お客さんが一人もいないギャラリーで、ぽつねんと立っている僕は、きっと痛々しく見えたことでしょう。スタッフは「かける言葉が見つからない」といった様子でした。

2013年、クラウドファンディングで資金調達しニューヨークで個展開催した際の1枚


逆風吹きすさぶ中、僕の挑戦を応援してくれた人がいます。このままでは日本に帰れません。いてもたってもいられなくなった僕は、ギャラリーを飛び出し、街中でビラを配り、得意でもない英語で呼び込みをしました。2月のニューヨークの寒いこと寒いこと。

それからしばらくすると、ビラを持った一人のお爺さんがギャラリーの中に入って来てくださいました。僕の海外の個展の最初のお客様です。ところが、お爺さんは壁に並んだ絵本の原画を一瞥し、すぐにギャラリーを出て行ってしまいました。その瞬間、これまで必死で目を背けていた「負け」の文字がよぎります。「応援してくださった方にどう説明しよう」とも考えました。しかし、その数分後。なんと、あのお爺さんがギャラリーに戻って来てくれました。今度は、お孫さんの手を引いて。

お爺さんは、僕の元に笑顔で歩み寄ってきてくださり、こんな言葉をかけてくれました。

「この絵を孫に見せたくて、急いで家に戻ったんだよ。もうすぐウチの娘達もココに来る。『日本から面白い男が来たぞ』とケツを叩いておいたよ。素敵な絵を描いてくれてありがとう」

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