堺雅人主演の大河ドラマ「真田丸」(NHK総合ほか)。6月5日(日)の放送では、かねて真田と北条が争ってきた沼田城の所有者を明らかにするため、真田と北条、そして証人として徳川の代表者を集めて、秀吉が裁きを行う“沼田裁定”が描かれる。
そこで重要な役割を果たすのが、徳川の代表として裁定に参加する本多正信だ。真田の代表となった信繁(堺)と、北条方の板部岡江雪斎(山西惇)が激しく舌戦を繰り広げる中、正信が話し合いに加わることで事態が急展開していく。
これまで家康(内野聖陽)の冷静な軍師として描かれてきた正信が、その人間性を垣間見せる注目の場面だ。今回は、そんな正信を演じる近藤正臣を直撃し、台本から膨らませ、肉付けしたという正信のキャラクターについて聞いた。
――演じられる本多正信の印象を教えてください。
名前は知っていましたが、詳しくは知りませんでした。脚本が三谷幸喜さんということで、今回は深く調べずに、台本からイメージを膨らませようと思いました。
三谷さんが、どんな軍師を描くんだろうと思っていましたが、「ああ、こいつは時々昼寝するな」というのが、台本を読んで最初に浮かんだイメージです(笑)。
さらに、感覚で言うと、主従関係が薄いですね。正信は家康の人質時代からの家来たちに比べると、後入りの人間だったようですが、年齢が若干家康よりも上だからか、何となく弟を見るような感じがあるのかもしれないですね。ベースは主君と家来の関係よりも、対等の関係でいたいと脚本を読んで思うようになりました。
――徳川家の“頭脳”の部分を担当しているわけですね。
そうですね。でも、頭脳が発達しているとか、機敏なふうには見えない方がいいなと思っていますね。昼寝していますし。「真田丸」には、それぞれの大名に軍師が登場しますが、キャラクターはそれぞれでありたいですね。
だから、オンエアされるまでは、人がどんなふうに演じたかは知らないようにしています。そしてオンエアを見て「そうか、そう来るか。じゃあ、(正信のカラーとして)やっぱり俺は昼寝しておこう」と思うんですね。
――そんな正信をどのように演じようと思っていますか?
正信は、あまり一生懸命にならないでおこうと思っているんですよ。軍師は、ゲームプレーヤーだと思うんです。徳川にとっては、まだ“天下取りゲーム”ではなく、“生き残りを懸けたゲーム”ですが、私の中ではそのゲームの真っ最中なんですね。
いい駒を持たないとゲームに勝てませんから、自分が選んだ殿には、どんどんスキルアップしてほしい。そのためには、いろいろと気を使いながらやっていくんですね。
戦国時代は、いつも後ろから刺されるという怖さがみんなにあったと思うんです。裏切られる、寝返られる、主君から手打ちにされることも含めて。いつ死ぬか分からないというときに、正信は「こそこそ生きてもしゃあないや」という感じで「ゲームを楽しみましょう」と考えるタイプなのでしょう。家康という大駒を持ってプレーしているわけですから、いい気分ですよ。
――その家康の人物像も、今まで見たことがないものでしたが、どのように感じましたか?
たぶん、演じる内野君もそう思っていると思います(笑)。でも、こういうキャラクターで最後まで行って、大坂冬の陣・夏の陣を越えて天下を統一した家康は、どんなふうになっているのかなと、まだ予測がつかないでいます。
そのときそばにいる私は、「まだ、やりますか?」と言うのか、「よう、ここまでおやりなさった、では、私めはここで失礼」と言うのか。そんなことをぼんやり考えています。
――軍師・正信から見て、家康の魅力はどこにあると思いますか?
まずは、血筋がいいことです。当時の社会からすると、やはり血筋が良ければ、多くの大名から援助を受けやすい。それから慎重です。三谷さんがお書きになっている、家康の初期の姿は“すごいビビリ”で、怖がりです。でも、それが当時の武将にとって、大きな資質だったと思います。
怖いから慎重になろうとする。だから、血筋の良さと慎重さと、そうやっているうちに蓄えてきた家臣や兵隊の数が損なわれずにいくんです。
そういういい駒に「よく寝返る男だ、裏切る男だ」という評判は絶対に立ててはいけない。もしそういうことが表に出そうになったら、正信は「いや、それは私がやったことでございます」と全てを被る立場でいようと思っています。
そうしないと、いい駒がいい駒のままでいかない。傷だらけの駒になったら使い物にならないですし、家康は大きな国と人間を抱えていますからね。それを傷つけてはいけない。
これからきっと、豊臣家に釣り鐘の字がどうしたとか、難癖を付けたりするんですよ。でも、「それは俺がやるから。家康さんは『わしは知らん』って言っていればいいんです」というふうに描いてもらえたらいいなと思います。
――家康の重臣・本多忠勝(藤岡弘、)の印象はいかがですか?
あのキャラクターは…「この男、おかしいぞ」と演じながら思いますね。特に娘・稲(吉田羊)が出てきたところは、ただのバカボンですね。何が“勇猛果敢な武将”だよと(笑)。でも、そういうところが三谷さんの書きたい人物像だったのかなとも思います
でも、彼はかわいそうですね。正信に叱りつけられることもあるし。向こうの方が階級は上なんですよ、石高も高い。当時は当然、戦でどれだけ首を取ったかが大事なのでね。だけど、参謀である正信からすると「後ろから、こっちに行け、あっちに行けと言うのはこちらの役割だから、おまえには遠慮せんよ」という感覚ですかね。
――実在の人物を演じることはいかがですか?
あったこともないし、見たこともないし、分からないんですよ。役者は、脚本家・プロデューサー・演出家が作ってきたものに対して、「ああ、この人間だったら、ひょっとしたらここで何か食べていませんか?」といった提案するわけです。
これは軍議のシーンの話なのですが、軍議があまりにも長いから、正信なら何か食べているのではないかと思って。監督に伝えると、最初は豆まきみたいな豆が用意されて、リハーサルでちょっと試してみたんです。
ただ、軍議をしているときに、ポリポリと音がするのはあまり良くない。今度は、あんずの干したようなものを小道具さんが用意してくれて、本番の時では“干した何かを食べている”となったわけです。
こういうことを考えるのが楽しいですね。演出がOKと言えばやりますし、駄目だと言えば従いますが、一応、何やら考えていることは伝えます。
――最後に6月5日(日)の放送では、“沼田裁定”が描かれますが、見どころを教えてください。
長いシーンです。ちょっと別のシーンが入って、まだまだ続きます(笑)。途中で私は居眠りするようです。「…! なんでございましたか?」という感じですね。どのように演じようか、楽しみです。
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