ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第118回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞 受賞インタビュー

撮影=阿部岳人

塚原あゆ子、山室大輔、 濱野大輝、棚澤孝義

体感的には「3年間頑張った!」という気持ちになりました(塚原あゆ子監督)

「下剋上球児」で監督賞を受賞された感想を教えてください。

塚原:シンプルにうれしいです。このドラマはキャストとスタッフがみんなプロだったからこそ成立した作品。このチームだから、“球児のみんな”だからこそ、監督賞をもらえました。

山室:越山高校の野球部員を演じた15人をはじめ、生徒役には野球の経験がある子が集まってくれました。それでも撮影するのは大変でしたが、みんなで頑張った結果、監督賞という形で認めてもらえたというのは非常にうれしく思っております。ありがとうございます。

濱野:「球児が頑張った」ということに尽きますね。2023年4月からオーディションを始め、それに参加した彼らは「越山高校野球部が甲子園を目指す」という展開と自分の人生とを重ね合わせて、一生懸命やってくれたと思います。主演の鈴木亮平さんもそう言っていましたが、僕たちは彼らのパワーに乗っかってドラマを作らせてもらったと感じました。

棚澤:本当に現場には熱意がありましたね。僕は途中からの参加でしたが、最終話に向けて、球児たちが成長していくのが伝わってきました。若い子たちがいい作品にしてくれたと思います。


塚原さんがチーフ監督、プロデューサーが新井順子さんというチームで野球のドラマを作ったのは初めてですね。どんなところに苦労しましたか?

濱野:野球中継に近いアングルにするため、カメラを引いて撮りました。球児たちは実際に野球をプレーできるから、吹き替えなしでアップにもできる。だから、彼らが走って塁を回る場面などは、深度のある(立体感のある)映像になったのではと思います。

山室:野球中継には、センターの位置から撮りピッチャー側からキャッチャーの方を見た画(え)ってあるじゃないですか。そういう中継で見るような映像を撮れたのは良かったですね。

塚原:「PC間(ピーシーかん※ピッチャーとキャッチャーの間の意味)」と呼ぶ画角ですね。せっかく専門用語を覚えたから、使っていこう(笑)。


みなさん、ドラマの監督ですから、野球中継の経験はなかったわけですよね。

塚原:もちろん、あるわけないです。

濱野・棚澤:経験ないですね。

山室:誰もやったことない。実際に撮るカメラマンは多少ノウハウを知っているかなというぐらいの状態から始めました。CGではないので、リアルに選手が投げたボール、打ったボールを追っかけなければいけない。しかも、ライト方向の打球が欲しいのに本番ではレフトへ行ってしまったという場合のように、臨機応変に撮る必要があり、カメラマンは技術的にもかなり難しいことをクリアしてくれました。

塚原:企画段階では「試合シーンはそれほど多くない」という話だったのに、球児役に野球経験のある子が集まってくれたので、もう野球を撮るしかない。新井Pからも「頑張れ!」と言われ…。

山室:「じゃあ頑張るか」と。撮影にかかった時間は、通常のドラマの倍どころじゃない。3倍、4倍ぐらいかかった気がします。

濱野:野球のシーンに関わってくれた人もたくさんいて、とにかくみんな現場で汗して頑張ってくれましたね。

塚原:(演出担当した)第9話は県大会準決勝の話でほぼ全編、試合。さすがに「頑張れないかも…」と思いました。試合の撮影にかけたのは4日間、他の場面を3日。そう考えると、1話に1週間ということで、普通の連ドラくらいだけれど…。最後の方はみんな慣れてきたということもあるでしょうね。


記者や審査員からは「アニメーションとの融合が新鮮だった」という意見も寄せられています。

塚原:アニメを入れることで新しい表現を探ってみようと思いました。私が野球のシーンを「盛る」にはどうすればいいのか分からなくて、そっちに頼った感もあります。例えば、野球の場面で「もっと早く走れたらいいな」とか「ボールをギュっと強く握れたらいいな」と思うポイントを表現するために、アニメの力を借りることはできそうだと…。1枚1枚手描きしているアニメチームを忙しい連ドラのペースに巻き込んで、迷惑をかけましたけれど、またぜひ一緒にドラマを作りたいです。


野球部の監督、南雲脩司役で主演男優賞を受賞した鈴木亮平さんは、現場ではどんな存在でしたか。

山室:ある意味、「裏でも監督」というか、球児たちの精神的な支柱になり、芝居に向き合うスタンスなども教えつつ本当に細かく面倒を見てくださいました。そうして若いキャストを導いてくれたので、そういう意味でも主演賞ですよね。

塚原:こんなに最高の座長はなかなかいない。また一緒に仕事をしたいと強烈に思います。連続ドラマを10話作るのには結構な体力が必要で、映画1本を撮るのとはまた違うレベルで人間力が試されるんですけど、鈴木さんは飽きない、へこたれない、みんなが疲れてテンション下がっても自分だけは上げられる人。黒木華さん(山住香南子役)と「あの子、疲れているね」と相談してその子に話しかけたりしてくれたので、本当に助けられました。

濱野:鈴木さんと黒木さんは、どっちかが出たらどっちかが引くというあうんの呼吸ができていて、さすが“元夫婦”(2018年の大河ドラマ「西郷どん」で共演)だなーと。

山室:球児が南雲を慕っていたのと同じように、キャストも鈴木さんを慕っていました。もちろん華さんも同じ役割を果たしてくれましたけど、亮平さんなくしては成り立たなかった作品ですね。

棚澤:鈴木さんは何事に関してもストイック。球児たちと接しながら、芝居と物語に対してどういう風に入っていくとか、そういうことまで指導してくれ、本当にすてきな“監督”でした。少なくとも僕より監督さんでしたね。

塚原:台本を深く理解する力もあり、直感で動く体力もあり、その両方を持っている人。頭でこうしなきゃいけないと分かっていても、なかなか体力面で思ったようにはやれないものだけれど、鈴木さんは体力もすごくある。普通、野球の経験がないのに撮影で「ノックしろ」とお願いしても、できない場合もあるわけなので…。

濱野:撮影が終わった後も、鈴木さんは一人でノックしたり素振りをしたり、ずっと練習していましたね。


その鈴木さん演じる南雲は越山高校の教師だったけれど実は…という展開に、「人生はやり直せるということが伝わって感動した」という感想が来ています。

塚原:スクールものって人間ドラマが生徒に集中しがちだけれど、この作品は南雲という教師に物語があって、先生は単なる解決屋ではない。大人は完璧で、子供が説教されるという昔ながらの感覚ではなく、大人だって完璧ではないし、子供が見るべき大人の姿は完璧ではない。共に歩んでくれる人を子供たちは欲しているという物語になっていましたよね。


やはりそのテーマは強く意識していましたか?

塚原:昔なら「下剋上」という言葉には、弱者が強者を倒してのし上がるというイメージがありましたよね。でも、菊地高弘さんの原案本もそうですが、ドラマでは脚本の奥寺佐渡子さんが、他者と比べての下剋上ではなく、自分が成長することへのチャレンジだという提案をしたいんだろうなと思いました。他人への憧れはありつつも「もっと自分を超えていけ」と励ますような物語なんだと。私たちはそこに向けて演出しました。


モデル(原案)となった白山高校のある三重県でロケをした映像も、印象的でした。

濱野:南雲の妻の美香(井川遥)の実家は牡蠣の養殖をしているという設定なので、漁業関係の方々に協力していただきました。

棚澤:本場の牡蠣もおいしく頂きましたよね。第4話から5話にかけて出てきた牡蠣小屋(居酒屋)に行って、最高でしたね。うま過ぎて、誰も宿泊所に帰らない。「もう一つ牡蠣の天ぷらください!」とどんどん注文して、亮平さんも帰らない(笑)。

塚原:撮影が早く終わった日、みんなで行ったね。

濱野:四日市市ではクランクインしてすぐ、県大会決勝の試合を撮りましたが、まだキャストも発表されていなかったのに、野球場にエキストラさんが2000人近く集まってくれたのはすごかったですね。最終話でも再び球場ロケをして、四日市の皆さんが球児を役名で呼んでくれるのを見て、すごく感慨深く…。撮影の3カ月間に球児の3年間が濃縮された感覚になりました。

塚原:鈴木さんも「本当に甲子園に行った気になった」と言っていましたね。クランクアップまでハードなスケジュールでしたが、地元の人に応援してもらって、体感的には「3年間頑張った!」という気持ちになりました。

(取材・文=小田慶子)
下剋上球児

下剋上球児

菊地高弘による同名ノンフィクション小説からインスピレーション受けて誕生した、ドリームヒューマンエンターテインメント。鈴木亮平演じる南雲脩司は、三重県立越山高校に赴任して3年目になる社会科教員。ひょんなことから廃部寸前の弱小野球部の顧問を担当することになると、南雲の日常は一変する。

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