一平と小暮に限らず、朝ドラのヒロインにはたいてい夫や恋人などの相手役がいて、その人が魅力的であることもドラマの楽しみのひとつ。相手役が良いとドラマの人気も高くなるといっても過言ではない。そんな相手役には必ず、比較対象となる登場人物も用意されている。
相手役をより良く見せること、彼と結ばれることのハードルとしてのもうひとりの人物である。そういう役は言葉が悪いが、あくまでシャレで「かませ犬」とも呼ばれることもある。ただ、あきらかに最初から勝負がついているように見える人物もいれば、相手役よりも素敵に見える人物もいて、そのバリエーションが朝ドラを毎シリーズ楽しませてくれる。
小暮も、出番は第6、7週の2週間と短かったが、映画を愛する誠実で優しそうな青年で好感触だった。演じている若葉竜也は大衆演劇出身で現在は映像で活躍。芝居も出来て、見た目も爽やかな彼は昨今、人気急上昇中。千代は一平より小暮とつきあったほうが幸福なのではないかとすら思えた。
いや、もちろん、成田凌は成田凌で華がある。映画「カツベン!」の大正時代の活弁士から「窮鼠はチーズの夢を見る」の現代に生きるゲイの役まで様々な役を確実に演じ、実力が増してきているところ。
一平も小暮も、どちらもええなあと女性視聴者もテレビを見ながら勝手に迷っちゃうという寸法だ。色違いの洋服や、ショートケーキかチョコレートケーキかどちらにするか迷っちゃうというような、比べるものがあるほうが欲望は増幅するのである。
朝ドラヒロインの本来の相手役ではないながら、結ばれないことが惜しいと思える登場人物として、忘れられないのは「あさが来た」(2015年度後期)の五代友厚(ディーン・フジオカ)がいる。ヒロインのあさ(波瑠)には燦然と輝く夫・新次郎(玉木宏)がいたが、五代はあさのビジネス面を助けてくれる頼りがいのある人物だった。日本経済を改革しようと情熱を注ぎながら志半ばで倒れる悲劇性もドラマを盛り上げた。
「わろてんか」(2017年度後期)では、高橋一生演じる伊能栞。
洒落た洋装がお似合いの芸術に理解ある御曹司で、ヒロインてん(葵わかな)につねに手を差し伸べる。てんの夫・藤吉(松坂桃李)は早くに亡くなって幽霊として登場するので、てんは伊能さまと再婚してもいいのではないかと視聴者をジリジリさせたが最後まで紳士的に接するのみ。そこがまた良かったとも言える。
「なつぞら」(2019年度前期)には吉沢亮演じる天陽くん。ヒロインなつ(広瀬すず)の北海道時代の幼馴染で、淡い恋心をお互いに頂きながら、なつは東京、天陽は地元で生きていくことを選ぶ。離れていても心のつながりを大事にするふたりの関係のもどかしさは、逆に尊くも見えた。
「半分、青い。」(2018年度前期)は、ヒロイン鈴愛(永野芽郁)と相手役・律(佐藤健)は幼馴染。どちらも一度、別の相手と結婚し、離婚後、お互いのかけがえのなさを再認識して長い年月を経てようやく結ばれるという流れに。
その間、ヒロインの憧れの人役で中村倫也、夫役で間宮祥太朗とかなりのイケメンが現れ、誰と結ばれても視聴者としては満足感のあるキャスティングであったが、最後はやっぱり佐藤健最強ということになるという、イケメン天下一武闘会のような濃密なドラマであった。
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