「エルピス」眞栄田郷敦“岸本”の変化 バージョンアップした彼はどこにたどり着くのか

2022/12/25 10:00 配信

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「エルピス―希望、あるいは災い―」が12月26日(月)で最終回を迎える(C)カンテレ

長澤まさみが主演を務めるドラマ「エルピス―希望、あるいは災い―」(毎週月曜夜10:00-10:54、フジテレビ系)が間もなく12月26日(月)の放送で最終回を迎える。スキャンダルによって落ち目となったアナウンサー・浅川恵那(長澤)と彼女に共鳴した仲間たちが、10代の女性が連続して殺害された事件の冤罪(えんざい)疑惑を追う中で、一度は失った“自分の価値”を取り戻していく姿を描く社会派エンターテインメント。恵那と共に行動する若手ディレクター・岸本拓朗を眞栄田郷敦が演じている。物語の中で最も変化した存在ともいえる岸本。最終回を前に、彼の“バージョンアップ”を振り返る。

物語を通じて大きく変化した岸本


現在放送中の「エルピス-希望、あるいは災い-」の中で、岸本拓朗(眞栄田郷敦)ほど変化しているキャラクターはいないだろう。

彼は、テレビ局の情報バラエティの新米ディレクターで、1話の冒頭では時代劇の大物俳優から「善人でも戦うべきときが来る」「今こそ、凡人をやめるときだ」と説教されるが、その言葉が何も響かないような人物であった。拓郎はナレーションで語る。「僕は自分を、エリートだと思っている」と。エスカレーター式で名門大学を卒業し、成城の一戸建てで年収1億円の弁護士のママと暮らし、上司に怒られても「感情の問題」と思う。やっぱり何も響いていない人物であった。

そんな彼が変わるのは、情報番組の盛り上げ役であるボンボンガールズの一人・篠山あさみ(華村あすか)を口説いたことをダシに、ヘアメイクの大山さくら(三浦透子)から、これをバラされたくないなら、彼女が関わっている冤罪事件を調べてほしいと言われたことがきっかけだ。

ひとりではどうにもできないと思った岸本は、同じ情報番組に出演する浅川恵那(長澤まさみ)や、新人時代の教育係であった報道局のエース・斎藤正一(鈴木亮平)に相談を持ち掛ける。このときの目力たっぷりで、なりふりかまわない岸本の姿が笑いを誘う。

【写真】第1話、まだ屈託のない表情を見せていた岸本(眞栄田郷敦)(C)カンテレ


「正しいことがしたい」という欺瞞


だが、何も考えていなくて、保身のために必死に動いているように見えた岸本にも、過去に自分を揺るがすような出来事があったことが徐々に見えてくる。エスカレーター式の名門学校時代には、いじめを苦にして自殺した同級生がいて、その同級生の苦悩を知りながら何もできず、母親とともに見過ごした経験があったのだった。

その過去があることで、岸本は自分が「正しいこと」をしている気持ちの良さに引っ張られたり、自分の罪を少しでも感じなくするためにも「正しいことがしたいなぁ」としみじみと考えたりする。「正しいこと」をしたいという、それ自体が目的となるのは、もちろん正しいこととは言えないから、見ているこちらには、もやっとしたものが伝わるのだが、それも脚本は承知の上だというのもわかるから安心して見られる。しかも浅川にも、この事件を通じて「自分の仕事を取り戻したい」という気持ちもあるから、岸本の浅はかな、でも切実な思いは、岸本だけでなく、浅川の欺瞞を明らかにする役割も担っているのだ。

その後、岸本は最初の屈託がなく、ちょっとバカなところもあるというキャラクターから、どんどん離れていく。その変わるきっかけが、情報番組のチーフプロデューサー・村井(岡部たかし)がつきつける「(学生時代の事件に対して、自分は)イジメたヤツ、かばうヤツ、見て見ぬフリをするヤツ…どれだったのか」という言葉だったのも印象深い。

チーフプロデューサー・村井(岡部たかし)

それ以来、岸本は物が食べられなくなり、笑顔もなくなっていき、やさぐれた風貌になっていく。冤罪事件の取材もひとりで進め、今まで守ってくれていた母親に対しても初めて反発する姿を見て、母親は彼を心療内科につれていこうともしてしまう。そこだけ別の物語の登場人物のように見えるくらい変わってしまった岸本。しかしそれによって、彼は冤罪事件の決定的な真実にまでたどり着く。