「イチケイのカラス」劇場版とSPドラマの前に魅力を振り返る 「HERO」にも相通ずる人間味あふれる名コンビ

2023/01/07 18:30 配信

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映画「イチケイのカラス」が1月13日(金)に公開(C)浅見理都/講談社 (C)2023 フジテレビジョン 東宝 研音 講談社 FNS27社

竹野内豊主演の連続ドラマ「イチケイのカラス」が映画となって1月13日(金)に公開されるのを記念し、翌14日(土)にフジテレビ系・土曜プレミアム枠にてオール新作スペシャルドラマが放送される(夜9:00-11:10)。平均世帯視聴率12.6%という、令和“月9”No.1の高視聴率を獲得したヒット作の魅力を紹介する。

「職権を発動します!」でお馴染み


フジテレビのドラマといえば、月9。様々な名作を世に送り出してきたこの枠で、令和No.1の高視聴率を記録したのが、2021年4月〜6月に全11話で放送された連続ドラマ「イチケイのカラス」だ。竹野内豊が2010年放送のドラマ「流れ星」以来11年ぶりに月9の主演を務めること、また民放連続ドラマとしては初となる“刑事裁判官”を主人公とした連続ドラマとあって、放送前から大いに期待が寄せられていた。

物語は、若くして特例判事補(※)になった東大法学部出身のエリート・坂間千鶴(黒木華)が、東京地方裁判所第3支部第1刑事部、通称”イチケイ”に赴任してくるところから始まる。「裁判官が的確かつ速やかに事件を処理することで日本の治安が維持されている」と考えている千鶴は、事件の処理件数が極端に少なく赤字状態に陥ったイチケイを立て直そうと燃えていた。

そんな千鶴の価値観を変えていくのが、元弁護士の判事・入間みちお(竹野内豊)だ。彼は千鶴と対照的に、「悩んで悩んで悩みまくって、一番良い答えを決めること」が裁判官の使命だと考えており、しばしば職権を発動する。「職権発動」とは、裁判官主導で現場検証などの独自捜査を行うこと。疑問を一つ残すことなく真相を解明していくスタイルのみちおが、公判中に「職権を発動します!」と高らかに叫ぶシーンはこのドラマのお馴染みとなっている。

原作は、2018年より講談社「モーニング」で連載された浅見理都の同名コミック。ドラマ版では、原作者了承のもと、漫画では脇役だった小太りの中年裁判官であるみちおを、イケおじ裁判官に風貌を変えた上で主役に据えた。さらに、坂間真平という主人公の名前を千鶴とし、男性から女性に性別を変更。性格から考え方まで何もかも真逆な、みちおと千鶴がともに真実を追い求めていく物語として再構築されている。「コンフィデンスマンJP」シリーズの田中亮監督がメイン演出として、コミカルだが観る人の心を揺さぶる重厚なヒューマンドラマに仕上げた。

※特例判事補=裁判官として実務を5年以上経験し、判事と同等の権限を有する判事補のこと。

映画の完成報告会に登壇した竹野内豊と黒木華※ザテレビジョン撮影


竹野内豊&黒木華の名コンビぶりに注目


このドラマの魅力は何といっても、みちおと千鶴の名コンビぶりだ。裁判官といえば、お堅く近寄りがたいイメージを持たれがちだが、二人は違う。どちらも見ていると思わずクスッと笑えるような、人間味あふれるキャラクターとして描かれている。

マイペースなみちおはいつも穏やかな笑顔を浮かべており、威圧感が一切ない。被告人も安心して真実を語れるだろうな、と思わせる低音で落ち着いた声色と口調に癒される。こう語ると、ダンディな大人の男性を想像するかもしれないが、結構子供っぽいのがみちおの面白いところ。ふるさと納税マニアであるみちおは返礼品を同僚たちに自慢したり、千鶴にくだらないイタズラを仕掛けたり……演じる竹野内のイメージとはギャップのある少年っぽいみちおの可愛らしさに心を奪われる視聴者が続出した。

ちなみに作中でもみちおには一定のファンがついており、傍聴人たちによる「みちおを見守る会」が存在する。そのメンバーをチョコレートプラネット、ミルクボーイ、見取り図、ミキといった芸人たちが毎話代わる代わる演じたことも話題となった。

一方、千鶴は堅物で冗談が一切通じないタイプ。いわゆる、“学級委員長キャラ”なのだが、彼女もまた回を追うごとに可愛らしい一面を見せてくれた。印象的なのは千鶴とみちおが住んでいる裁判官宿舎での場面。千鶴はその日、みちおの行動に納得がいかなかったり気になったりしたことがあると、矢も盾もたまらず彼の部屋を訪れる。そういう真面目が行き過ぎているところが、観ているうちに愛らしく思えてくるのだ。

速さと効率性を重視しているけれど、法の番人としての矜持は決して捨てない。本作はそんな彼女がみちおに影響を受け、裁判に関わる一人ひとりの人生により深く向き合うようになっていく成長譚でもある。意見は違っても、哲学的対話を通して少しずつ心を通わせていくみちおと千鶴。恋が始まりそうで始まらない、絶妙な関係の行方も気になること間違いなし。