「リバース」新井順子Pにインタビュー「原作のその先を見たいと思いました」

2017/08/14 12:36 配信

ドラマ

最優秀作品賞を受賞した「リバース」の新井順子プロデューサー撮影:大石隼土

'17年春クールにかけて放送されたドラマを対象に開催した「週刊ザテレビジョン 第93回ドラマアカデミー賞」の受賞作が決定。

最優秀作品賞に輝いたのは、事故死した親友の死の真相に迫った湊かなえ原作のヒューマンミステリー「リバース」(TBS系)。作品賞に加え、藤原竜也の主演男優賞、脚本賞の3部門で入賞を果たす結果となった。

夜行観覧車」('13年)「Nのために」('14年、共にTBS系)と、続けて湊かなえ原作のドラマを手掛けた新井順子プロデューサーにインタビューを敢行。作品への思いやエピソードなどを聞いた。

――スピード感のある展開と、意外性が引き込んでくれるストーリーが印象的でした。ストーリーでこだわった部分を教えてください

確かに急展開なところはありましたが、スピード感を意識していたというよりは、 “それはある日突然に”というような、日常に潜む落とし穴を描いていったので、そのように感じられたのかと思います。スピード感も大切ですが、毎話、皆が隠していることが一つずつ明らかになっていく秘密や、深瀬(藤原竜也)、浅見(玉森裕太)、村井(三浦貴大)、谷原(市原隼人)の4人をじっくり丁寧に掘り下げていくことを大切に描きました。「友情」がテーマの一つでもあって、友達じゃなかったメンバーが友達になっていく過程を7話まで描き、8話からは美穂子(戸田恵梨香)とどうなっていくのかをメインにしました。美穂子は7話まで、核心の部分を隠しておかなきゃいけなかったので、最初が描きづらかったですね(笑)。

――現代から過去に行く時の逆回転の演出が印象的でした

監督が「どう表現したらいいんだろうか」と頭を迷ませ、あの形にたどり着くまでに結構時間がかかりました。「リバース」というタイトルをどう生かすかというのを一番に、撮影を進めながら試行錯誤して決めていきました。色々なシーンを抜粋して、映像をくるくる回しているんですけど、実はよく見ると毎話選んでいるカットが違うんです。1コマ1コマ止めて見ると、大分違います。1カット0.2秒程度なんですけど、実はその中に物語のヒントが隠されているんです!

――「夜行観覧車」「Nのために」に続く湊かなえ3部作の本作。湊さんの作品が原作であることへの思い入れを教えてください

3作目だったので、よりプレッシャーがありました。実は今回、事前に打ち合わせをする機会があったんです。「夜行観覧車」「Nのために」のときはできなかったのですが、今回は直接原作でこだわっているポイントや、キャラクターやセリフの意図などを脚本家や監督と一緒に聞くことができました。脚本の奥寺(佐渡子)さんが「3部作の中でこの作品が一番難しく、何度も書き直した」とおっしゃってました。「夜行観覧車」は真弓(鈴木京香)、「Nのために」は希美(榮倉奈々)の気持ちをたどっていけばいいんですけど、今回は4人の気持ちを一気に見ていくので、何を見ればいいのか分からなくなっちゃうんですよね。なのでバランス良く描きつつ、見やすくするために苦戦しました。

――最終話は、原作の向こう側であるオリジナルストーリーが描かれました。新しいストーリーは、どのようにして描くことになったのでしょう

単純に自分が原作のその先を見たかったのと、9話かけて愛情を持って応援してきた深瀬が悲しみの谷底に突き落とされて終わりってなっちゃうと、「その後どうなったの!?」と気になると思ったので最終話を描かせていただきました。あと美穂子の存在意義。被害者と加害者じゃないですけど、それに似た関係の中で、広沢(小池徹平)の死の真相を知って落ち込む深瀬に美穂子が手を差し伸べる…浅見、村井、谷原が友情を持って深瀬を助けるというのも描きたかったんです。罪は消えないけど、これからも生きていかなきゃいけない、さらに広沢の両親に真実を伝え、謝罪しなければ終われないんじゃないかと思いました。

――オリジナルとなる10話に関して、湊先生とはどのような話をされましたか?

最初にオリジナルの10話をやりたいというお話をさせていただきました。湊さんは「最終回は小説の先だから、私の手を離れます。このチームがそういう先があったんだろうと描く物語ならお任せします」とおっしゃってくださいました。湊さんの脚本家への信頼がとても厚く、最初は「(オンエア前に)台本も何も見なくていい。放送を楽しみにしてます」というほどだったんですけど、ちゃんと事前にご確認いただきました(笑)。

――一見するとどんくさいイメージの主人公・深瀬を見事に演じられた藤原竜也さんに対する印象や、役柄に込めた思いを教えてください

藤原さんってとても格好いいじゃないですか。そんな藤原さんが頼りない青年を演じたら面白いんじゃないかと思ってお願いしました。でも実際、どんなダサい服を着ても格好いいんです(笑)。「どうしましょう…」って衣装さんと何度も何度も打ち合わせをしました。撮影が始まって最初のころ、藤原さんが道を走っているシーンで、何とも言えないステップを踏みながら走っている姿を見て、深瀬が藤原くんの中にいると確信しました。あと、サッカーボールを蹴るシーンとかもみんな大爆笑でしたね(笑)。「あれ狙ってるの?」って聞いたら「たまたまそうなりました」って。でも藤原さんは元サッカー部なんですよね(笑)。

――今作を作っている中で、特に印象に残っていることはどんなことでしょうか?

初めて男5人で本読みをしたとき、誰もしゃべらず、休憩になると外に出てしまったりして、皆が人見知りだったのは意外でした。それぞれつながりがあるんだけど、皆ではしゃべらないみたいな空気でした。中々打ち解けなかったんですけど、それを打破するために、ある日市原くんが、三浦くん、玉森くんを撮影があったタイミングで連れ出して食事に行ったんです。そこで打ち解けてからは皆でも行くようになって、気付いたら全員すごく仲良くなっていました。今ではあの5人でご飯に行ったりもしているらしく、その和気あいあいとした雰囲気が本当に大学生みたいなんです(笑)。

――今回、最優秀作品賞、最優秀主演男優賞、脚本賞を獲得された「リバース」、ご自身にとって、どんな作品になりましたでしょうか?

“友情”っていいなと思いましたね。友達の友情もあるけど、仕事仲間との絆という友情もあると思っていて、この作品はその友情がしっかり結ばれたチームになれたのがすごく良かったと思います。美術さんや技術さん、一人一人が、「こういう風にしたらいいんじゃないか」と意見を出し合っていて、カメラマンが「この感情変じゃない?」という意見を監督に言ったり、そういうことが言える現場だったんです。一人一人がちゃんと考えて意見を言える雰囲気だったので、監督も皆に意見を求めたり、そういったチームワークは深瀬たち同様、とても良かったと思います。