人気作というのは輝きが何年経っても色あせない。田村さんの風貌や話し方は第1話から完全に確立されていて、振り返って見ても視聴者の想像する“古畑任三郎”像が1ミリも崩されることがなく、キャラクターとして強い。古畑と部下の今泉が漫才のようにかけあいをして“ツーカーの仲”になっていくのはまだ先の話。初回はとにかく真っすぐに、古畑が鋭い視点で事件を紐解いていき、犯人を追い詰めていく姿が描かれる。
中森明菜演じるちなみは、薄暗い別荘で犬と暮らすミステリアスな美女。古畑、ちなみ、犬。数カットのみの今泉。出演者は以上である。華やかなキャストが大勢出演していたトレンディドラマ全盛期に「古畑任三郎」が異色の勝負作だったことが伺える。
本人は出来を気に入っていない自作のコミックを古畑が読み、感動して涙を流した。それを見て心を許したのが、ちなみの最大のミスだろう。停電で帰れなくなった古畑にたまごスープを作り、そのたまごが新鮮なことから「1カ月ぶり」に別荘に来たという証言の矛盾が露呈してしまったのだ。そこからはちなみが気の毒になるほど、古畑に軍配が上がっていった。
罪を悔いるちなみに古畑が「まだまだじゃないですか、第1巻目が終わったところですよ」「ハッピーエンドは最後の最後に取っておけばいいんです」と、コミック作家のちなみに語ったシーンが感動的である。殺しを疑う刑事に温かい食事を作ってしまう犯人。「古畑任三郎」が長く愛されるのは、そんな人間たちを描くミステリーだからだろう。
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