ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第116回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞 受賞インタビュー

(C)日テレ

狩山俊輔、伊藤彰記、長沼誠

髙橋海人さんと森本慎太郎さんの役に向き合う熱量の高さには感謝しかないです(狩山俊輔監督)

ドラマ「だが、情熱はある」で監督賞を受賞された感想を教えてください

ありがとうございます。こういうタイトルですから、スタッフみんなが同じ熱量で乗り切ろうという団結力の結果だと思います。「情熱を出していこう」とある種の強迫観念みたいなのもあったのかもしれません(笑)。それぐらい熱い現場でした。

クランクイン前はどのような作品にしたいと思っていたのですか?

以前からオードリーさんのラジオは聴いていましたし、とにかく若林(正恭)さんと山里(亮太)さんに恥ずかしくないものにしたいし、お二人に喜んでほしいと思っていました。今まで偉人や歴史上の人物をドラマにすることはあっても、現役で活躍していてテレビでもおなじみの芸人さんを題材にしたドラマってなかなかなかったと思うんです。そういう意味でも視聴者の皆さんはもちろんですが、何より若林さんと山里さんに面白がってもらいたかったです。


放送が始まって、回を追うごとに主演の髙橋海人さんと森本慎太郎さんの憑依(ひょうい)ぶりが話題になりましたね。

髙橋さんと森本さんの役に向き合う熱量の高さには感謝しかないです。最初からお二人が高い熱量を持って挑んでくれたからこそ、スタッフも強い思いにつられて同じ熱量で完走できたと思っています。それくらい2人とも本読みの段階から完成度が高くて。特に髙橋さんは驚くほどのそっくり具合で、ドラマ内の若林正恭としてどう落とし込んでいくかを本人と話し合って、薄めていったぐらいでした。難しいところですが、ドラマなので役作り=物まねになってしまってはいけないと思ったんです。

とは言え、本読みの段階では物まねもお願いしていたので、髙橋さんも森本さんも困惑されたと思います。森本さんは髙橋さんの物まねの完成度に「自分が似てなさ過ぎる」って若干へこんで帰っていったことも(笑)。そういう森本さんも役に入って、こんなこと言うのはあれですけど、山里さんの性格の悪さというか目に邪悪さがともってからは、あまり多くを言わずとも妬み嫉みが自然と表現できるようになったと思います。

さらに今回は芸人さんを演じるということで、プライベートの感情を爆発させるシーンの他にも、ラジオのシーンや漫才のシーンといったより再現性を求められるところもあって。物まねに寄せるところは寄せる、感情で話すところは抑えるといったメリハリは2人に意識してお願いしていました。


映像の表現手法も画面を2画面に割ってあったり、回顧シーンは照明もノスタルジックな雰囲気だったりこだわりを感じました。特にこだわった部分はどんなところですか?

若林さんと山里さんそれぞれの出会うまでのエピソードを別々に流すと、まったく別のドラマになってしまうので、それを解消してそれぞれの時系列で2人の人生が楽しめるよう2画面で流すことにしました。漫才の立ち位置と同じく、向かって左側に山里さん、右側に若林さんがくるように配置したのですが、シーンによっては背中合わせになったり、向かいあったりと遊び心も入れつつ、2人が運命的に出会うM-1敗者復活戦のシーンで画面が合体するという。そういう意味では8話までは主役ふたりはほぼ出会わずという(笑)。

技術的なこと以外でいうと、ロケ場所はできる限り本物に近づけたいと思いこだわりました。まずはエンディングのご本人映像でも出てくる解散ライブの会場となった北沢タウンホールはマストでしたし、山里さんが大阪で入り浸っていたという喫茶店でも撮影させていただいたり。M-1敗者復活戦のシーンも同じ競馬場ではなかったですが、競馬場を借りて撮影しています。


確かにM-1敗者決定戦のシーンはセットやシーンの再現性が特に高くてびっくりしました。

ありがとうございます。今って良くも悪くも全て記録として残るじゃないですか。折角なら限界まで再現してみたいなと思って。衣装さんも美術スタッフも残っている1枚の写真からできるだけ同じものを探し回ってくれたり、2日前に欲しいとお願いした小道具を用意してくれたりと、とにかく全員の「この作品をやり切るんだ」っていう熱量に助けられました。


そういった現場の熱量がM-1敗者決定戦のオードリーと南海キャンディーズの迫真とも言える漫才の演技にもつながっているのでしょうか?

いいシーンになりましたよね。4人には実際に何百人もの観客の前で漫才をしてもらったので、とてもプレッシャーだったと思います。

実は当時の現場の雰囲気を感じたかったのですが、敗者復活戦の映像は見つからなかったんです。そこで髙橋さんが若林さんに連絡してくれたところ、どこかで保管していたものが見つかって、それを共有してもらうことができたんです。それを見ながら実際とカット割りは少々違うものの、間だったりとか本選ではかんでしまってる箇所を、敗者復活戦ではかんでいないのでそこを再現したりとか、時間のない中でも努力して挑んでくれました。

もともとクランクイン前には髙橋さんと森本さんに漫才をしてもらう予定はなかったんです。でも、いざ撮影に入ると現場でもご本人たちも好きでテストとかでもやってくれるし、ネタを用意してきてくれたこともあったので、それならば芸人さんがカメラの前や観客の前で漫才をする思いを体感してもらった方が演技にも生きるのかなと思って。

そうやって撮影してきたおかげでM-1の敗者復活戦の漫才のシーンでもやり切れる漫才の力がついたのかなと思います。相当カットしてしまっていて心苦しくもあるのですが、彼らの漫才を相当数見てきていると、もちろんプロの漫才師の方の比べたらまだまだですけど、君らも売れてくれって応援しちゃってました(笑)。


そんなM-1敗者復活戦の撮影裏話などあればぜひ教えてください

撮影は1日しかチャンスがなかったんです。エキストラも何百人も呼んでいましたし、ロケ先の競馬場にもいろんな機材や装置を用意してしまっていましたから。でも、ちょうどその日の天気予報を見たら大雨の予報で。でもこの日に撮らないとスケジュール的にもオンエアできないってギリギリの状況にドキドキしていたら、なんと当日奇跡的に雨が降っていなかったんです。しかも撮影を始めたら日も出てきて汗ばむような陽気に。すぐ近くの別の場所では大雨の地域もあったみたいなんですけど。ロケが終わってからも、あの日は何だったんだろう、神がかってたねってスタッフと話してました。


ありがとうございます。最後にこのドラマを通じて視聴者の皆さんに伝えたかったことを教えてください

ドラマの中では売れることがゴールとはしていないんです。若林さんと山里さんが売れるまでの長い期間をどう過ごし、売れた後、そして現在までつながっていきます。結局、自分がゴールに設定したことは必ずしもゴールではないんだなと思います。もしかしたらその先にも新たなゴールが待っているかもしれない。自分ならそのあとどう生きるのか…そんなことが伝わったらうれしいです。
(取材・文=薄井理絵)
だが、情熱はある

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若林正恭と山里亮太の半生を、高橋海人と森本慎太郎主演でドラマ化。次々と湧き上がる「負の感情」を燃料に、いばらの道をもがき苦しみながら突き進む“極度に人見知りな超ネガティブ男”と“被害妄想と嫉妬に狂う男”。そんな二人のダメでさえない人生からの大逆転を描く、笑いと涙のエンターテインメント。

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