ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第120回ザテレビジョンドラマアカデミー賞最優秀作品賞 受賞インタビュー

(C)カンテレ

アンメット ある脳外科医の日記

お互いを尊重できる人たちが集まったのが何よりも奇跡的なことでした(米田孝P)

第121回ドラマアカデミー賞で「アンメット ある脳外科医の日記」が作品賞、主演女優賞、助演男優賞、脚本賞、監督賞、ドラマソング賞の6部門を受賞しました。

これだけ評価していただけて、うれしいです。特に作品賞は、このドラマに関わった一人一人が報われたという感じがしますね。「アンメット」は民放の連続ドラマの可能性を追求した作品で、通常のドラマより多くの時間、労力をかけましたが、一緒に完走してくれた全てのキャスト、スタッフに感謝したいです。
6月に放送が終わってからも、SNSなどで感想をたくさん頂いていますし、テレビ局内でも直接「まだ見てます!」と声をかけてくれた人もいて、まだまだ反響が広がっているなぁと実感しています。

「キャスト全員の細やかな芝居の上手さが光る名作」「映画のような質感の映像と迫真の演技に引き込まれた」とクオリティーの高さに驚いた人が多かったようです。

うれしいですね。ただ、「映画っぽく」と意識していたわけではなく、一番良いものになるにはどうすればいいのかと純粋に考えようと、みんなで話し合いながら作っていった結果、こういう作品になりました。

「ドラマだからこうだ」というのはテレビ屋の思い込みだから、そういう発想を一度捨て、セリフの取捨選択、映像のアングル、音楽の使い方など、今までやってないチャレンジをした作品です。それだけに、放送する前は、その試みがちゃんと伝わるのか?という不安はありました。だから、第1話をオンエアしたとき、SNSでの反響などがすごく大きく、「よし、いけるんやな」という手応えを感じて、うれしかったですね。


本作の制作経緯としては、最初に、原作漫画(原作:子鹿ゆずる/漫画:大槻閑人)をドラマ化したいということで、米田さんが発案したということですね。

そうです。医療ものをやってみたいという思いはずっとあったんですけど、プロデュースしたのは今回が初めてです。まず、ミヤビ(杉咲花)の記憶障害という状況がこれまでの医療ドラマにないもので、興味を引かれたし、葛藤する彼女の心情を描くことで新しい作品にできると思いました。

さらに、原作漫画に「医療は命を救って終わりじゃない。その後の人生の方がもっと長いんだ」というセリフがあり、まさに、“このドラマで描いた後の物語”、そこに生きる人間の姿を想像できるドラマにしたいと思ったんです。ミヤビ自身もそうですが、病院に運ばれてきた患者たちがその先をどう生きていくのか。そこに目が向けられる作品にしたいと、最初から最後までずっと思っていました。


そこに脚本の篠﨑絵里子さんや主演の杉咲花さんが参加し、かなり前からみなさんで話し合いながら作っていったと…。

そうですね。篠崎さんとは2021年の企画当初から一緒に、2023年の秋ごろからは杉咲さん、若葉さんとも話し合いながら内容を作っていきました。「この展開はどうしようか」と意見を言うとき、それぞれの主観があるので、少しずつ角度は違うけれど、大きな作品のテーマを共有できていたのでみんなで同じところに向かう話し合いができました。そこにそれぞれのアイデアが入っていったことでいいものになったと思います。それは杉咲さん、若葉さんも、同じように感じてくれていて、そんな話をしましたね。


この2024年4月クールはなぜか「記憶喪失」設定のドラマが多かったのですが、3年以上前から準備してきて、やっと放送となったら…と、「かぶり」は気になりませんでしたか。

そのことは放送中も何度か質問されました(笑)。正確に言うと、「アンメット」は記憶喪失ではなく記憶障害ですが、記憶を巡るストーリーが4作か5作、たまたま重なったわけです。しかし、一つのドラマを企画し成立させていくのは、結構な大事業なので、われわれ制作者からすると、「記憶喪失がかぶるから、この企画はやめておく」という考えにはなかなかならないですよね。そして、「アンメット」はもちろん、どの作品にも“記憶”を題材として、その先に描きたいテーマがあるはず。そこをちゃんと見てもらえたらいいのではと思いました。


主演女優賞を獲得した杉咲花さんの演技はいかがでしたか?

杉咲さんは、もう次元が違うという感じでした。ミヤビの日記や絵を自分で書いたことが注目されましたけれど、それは彼女が川内ミヤビになるためにした多くのアプローチの一つでしかない。いわゆる「役作り」というワードが、杉咲さんの場合は、あまりしっくりこないんですよね。撮影現場で杉咲さんを見ていると、セリフを言っているのではなく、ミヤビがしゃべっているようにしか見えなくなって、「役を生きる」とはこういうことなんだと実感させられました。


助演男優賞を受賞した若葉竜也さん(三瓶友治役)はどんな俳優だと思いましたか。

三瓶が笑顔を見せる瞬間が印象的で、まず第1話の終盤でミヤビに「つながりましたね」って言う場面の表情が素晴らしいなと思いました。ただ、若葉さんがあの笑顔を登場時から取っておいていて出したのか、三瓶の気持ちで演じていったら自然にああなったのかは、分からないんですよね。自分に役を染み込ませて演じる感じは、杉咲さんと同じなんですけど、若葉さんは、そこにもう一つ客観的な視点が入っている感じがします。


無愛想だけれどミヤビを懸命に助けようとする三瓶がすてきだと評判になりました。若葉さんにはどんなふうに演じてほしいとお願いしたのでしょうか。

僕も監督たちも、杉咲さんと若葉さんには「こういう芝居をして」と指定するディレクションは、ほぼしていません。第3話で三瓶がミヤビに婚約者だったことを打ち明け、「僕は川内先生の記憶障害を治したい」と言う。若葉さんに「ここで三瓶の人間味を見たい」というのは、リクエストしましたが。

第6話、大迫教授(井浦新)の抗てんかん薬のうそが分かったときは「めちゃくちゃ怒ろう。ブチギレ三瓶で行こう!」と言ったら、それぐらいのシンプルな言葉によって、びっくりするぐらい表現をふくらませてきました。若葉さんが「多分、論文の紙をバーンとたたきつけるところまでやれると思います」と言っていたのがすごく印象的でしたね。

他のシーンでも、三瓶の心情を想像して組み上げていくプロセスを本当に綿密に繊細にやっているんだろうなぁ、と。おそらく、どの役をやっても「その人」にしか見えなくさせるものが若葉竜也にはある。そういうすごみを感じますね。


ドラマソング賞を受賞した、あいみょんの「会いに行くのに」は、ドラマの物語を基に作ってもらったものですか?

僕がもともと、あいみょんさんの大ファンで彼女の曲に詳しいこともあって、この作品にバチっとハマる曲を作ってくれるという確信があり、主題歌はどうしてもお願いしたいと思いました。

「アンメット」の根幹のテーマは「希望」なんですよね。病気という要素はありつつ、毎回、何かしらの希望を得て終わっていく展開にしたい、ほんの少しでも望みを得て人間が生きる姿を描きたいなと思っていました。だから、エンディングで流れる主題歌は、何か希望が見つかったときの温かみを感じる歌にしてもらえたら、ということだけリクエストして、そこからふくらませて曲を作ってくれたんです。

最初に聴いたときよりも話数が進んでからの方が、ますます歌詞が物語にシンクロしてきて、僕らもまだ作ってもいなかった物語を予見していたのかと…。あいみょん、天才ですか?と改めて思いました(笑)。


あいみょん、キャストなど、天才が大集合したドラマだったわけですね。

そうですね。天才というだけではなく、今回のやり方は、誰かが自分勝手に我を通そうとしたり、ずれた感覚を持っていたり、解釈が違ったりすると、ぐちゃぐちゃになる可能性もありました。でも、まず原作が持つ力がありましたし、「アンメット」はここへ向かうんだよというゴールをキャスト、スタッフの全員で合意できている状態で進んでいけたことが、作品をどんどん大きくしていったと実感しています。

まさにミヤビが勤める病院の温かい雰囲気のように、みんながお互いを尊重できる。そういう人間が集まったのが、何よりも奇跡的なことでした。

(取材・文=小田慶子)

アンメット ある脳外科医の日記

杉咲花演じる“記憶障害の脳外科医”川内ミヤビが、目の前の患者を全力で救い、自分自身も再生していく医療ヒューマンドラマ。過去2年間の記憶がなく、新しい記憶も1日たったら忘れてしまうミヤビは、医療行為ができない。そんな中、脳外科医・三瓶友治と出会い、再び脳外科医としての道を歩むことになる。

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