ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第120回ザテレビジョンドラマアカデミー賞主演男優賞 受賞インタビュー

(C)TBS

長谷川博己

個性豊かな俳優たちと共に芝居ができる幸せをかみ締めていました

「アンチヒーロー」の明墨正樹役で主演男優賞を受賞しました。ぜひ感想をお聞かせください。

いや、うれしいですね。助演男優部門では2回受賞を頂きましたが、主演男優賞は今回が初めてですので、大変な名誉だと思っております。「アンチヒーロー」のチームはプロデューサーの飯田和孝さん、田中健太さんをはじめとする監督たちが、「小さな巨人」(2017年TBS系)でご一緒させていただいたメンバーで気心も知れていましたので、撮影の1年ほど前から何度も打ち合わせを重ね、僕からも「明墨はこんなふうに演じていきたいんです」と要望やアイデアを出し、それをキャラクター造形に積極的に生かしていただいた部分も少なからずあります。
そういう過程があったからこそ、明墨という独特のキャラクターが成立しましたし、その役で評価していただけたわけですから、制作陣と共にみんなで取った賞だと思います。


今回、投票した人からも「善人か悪人か分からない明墨はミステリアスで魅力的だった」という感想が来ています。明墨について、長谷川さんの方から提案したのはどんな点でしょうか。

初期の企画書の段階では、明墨は鋭い口調というか命令口調で話すキャラクターでしたが、それを僕の肉体を使って演じることを考えると、不敵な感じで敬語を使うようなキャラクターの方がいいのではという提案をしました。本当にパッと思いついたんですが、「笑ゥせぇるすまん」の喪黒福造のように不気味な感じがあったら面白いなとも…。他にも、明墨は弁護士ですけど探偵みたいなこともするので、「古畑任三郎」や「刑事コロンボ」、ジェレミー・ブレットの「シャーロック・ホームズの冒険」(イギリスのドラマ)のキャラクター要素なども取り入れました。


たしかに明墨は誰に対しても丁寧語、敬語でしたね。スタッフの皆さんと楽しみながらキャラクターを作っていった感じでしょうか。

そうですね。僕は楽しんでいましたし、皆さんもそうじゃないかな。明墨法律事務所の外を出入りする際に、たぬきのお腹を触るのは田中健太監督のアイデアですし、宮崎陽平監督は「映画『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』が好きだから、明墨に赤い風船を持たせたい」と言って、4話の中でそういうシーンを作りましたし(笑)。

僕も事前にいろいろと考えたけれど、現場に入ったら演技のプランは一回、全部捨てたつもりで、場のフィーリングも重視し、監督がおっしゃることを受け入れ柔軟にやっていくようにしました。だから、ずっと不敵なキャラクターで通していこうかとも思ったんですが、中盤以降、緒形直人さん演じる死刑囚の志水とのシーンなどでは、芝居というよりはライブのようになっていきました。


志水に向かって「あなたを必ず無罪にします!」と訴えかけるときの必死な表情を見ると、これが明墨の本当の顔で、いつもは事務所でも法廷でも何か役柄を演じているような感じなのかなと…。

そうですね。そこは変に繕うことなく、感情に素直になっていいのかなと。そう思って演じてみたら明墨の多面性が出せたので、結果的に良かったんじゃないかなと思います。


時間をかけて準備をしながら、撮影では臨機応変にアレンジもできるというクリエイティブな現場だったということですね。

そうですね。「犯罪者の犯罪の証拠があっても無罪を勝ち取る」という設定に関しては賛否両論があったと思いますが、ドラマを作る側としてはブレずに行こうという話をし、最後までアンチヒーローの明墨を演じ切れたのですごく楽しかったですね。

本当に“ものづくり”をしているという実感があり、テレビドラマではなかなか珍しい現場でした。僕は大河ドラマの「麒麟がくる」(2020年NHK総合ほか)以来、ドラマの現場に入るのは3、4年ぶりで、これだけの時間をかけ取り組むことが良い作品制作につながるということもよく分かりましたし、今後もこの作り方が成立すれば理想的だと思います。


法律用語を駆使する法廷劇でしたが、「長谷川さんのセリフ回しが上手くて、滑舌も良く、分かりやすかった」という意見も来ています。

いや、そんなに滑舌良くないんだけれど(笑)、そう言っていただけて、うれしいです。ただ、法廷ものならではのセリフの硬さがある中で、人物の感情の流れを追えば何を言っているのか分かることを目指していました。

撮入前に、実際の裁判を複数見学させていただき、ケースごとの出来事に圧倒されいろいろ深く考えさせられましたが、役作り目線で見た法廷でのやりとりは、20代から接してきた演劇の世界観にも通じる部分があるように思えて、結果、作品のテイストとして臨場感を出すのにつながったのかもしれません。ただ、もちろん“演劇的”ではあるけれど、決して“演劇”になってはいけないというのは、意識していました。


毎回あった裁判のシーンの中でも、やはり最終話(第10話)で明墨が被告人になった裁判がオンエアで38分間という長丁場で、演じるのは大変だったのではないですか?

あのシーンが一番の山場でした。明墨は被告人ですので、本当は座っているのが通常なのですが、とにかく尋常ではないセリフの量で、これを被告人席でずっとしゃべるのは単調かなと思ったので、あえて弁護人のように立ち振る舞い、流れを変えたいな、と。被告人が検事の伊達原(野村萬斎)を問い詰めるというのは、リアルじゃないと言ったらそうですけど、一応、法律監修の先生からも「ありえなくはない」ということだったので…。そこは皆さんがどう見てくれるのかなと、気にはなりました。


あのシーンは撮影に4日間かかったということでしたが、終わったときはどんな気持ちでしたか。

とにかく体力を使いましたね。全て終わったときは、本当にホッとしました。


最終話のような緊張感のあるシリアスな演技の後も、現場では和気あいあいとしていたのでしょうか。

ずっと(セリフを)しゃべり続けているので、気が抜けないんですよ。監督の「カット」の声がかかっても、スッと控え室に戻って、ひとりで集中していました。そこでどなたかと雑談すると気が緩むし、セリフがちょっとあやふやになって、本番でトチりかねない。作品を引っ張っていかなければならない人間としてそんなところ見せられないですからね(笑)。でも、そこまでシリアスでもない場面では、普通に皆さんと話して、とても楽しい前室(セットに隣接した控え室)でしたね。


助演女優賞を紫ノ宮飛鳥役の堀田真由さんが受賞しました。共演はいかがだったでしょうか?

おめでとうございます。堀田さんとは「獄門島」(2016年NHK BSプレミアム)で共演して以来でしたが、ますますすてきな女優さんになっているなというのは、すごく感じました。今まで僕が見てきた彼女の出演作とは違って弁護士役という芯が強い役がこんなにはまるとは、さすがでしたね。


助演男優部門では、赤峰柊斗役の北村匠海さん、伊達原泰輔役の野村萬斎さんが上位に入りました。

萬斎さんは何度かご一緒させていただいていますが、まさに魔物が降りてきたかのごとき快演で、圧巻でした。今回はあの姿を目の前で見て、ちゃんと対峙(たいじ)して、役者として戦えたのは、とても刺激的でしたね。

それがドラマのすごく面白いところで、萬斎さんのような狂言師もいらっしゃれば、匠海くんのような若い俳優もいて、出自の違う人たちが集まってやるので、その中心にいる立場としては、それぞれの演じ方を受けていかないといけない。でも、それで自分が得るものもいっぱいありますし、これだけのキャストがそろった作品で演じさせていただけることはとても幸せだなと、毎日、かみ締めながら撮影していました。


最終回は「アンチヒーロー」というタイトルの意味を改めて考えさせられる終わり方でしたが、明墨が今後どうなるのかを考えましたか。

明墨はどういう人間なのか、最終的には何が目的なのかということも、先の先まで考えていて、「そういうものがあるから今はこういう行動をしている」というのは、プロデューサーさんたちにもたくさん話していました。今回のドラマでその背景をちょっと出したいとも思ったんですが、全10話ではそこまで描き切れなかったですね。


では、続編もありえるということでしょうか。

そうですね。明墨というキャラクターはかなり好きなので、また演じてみたい。ただ、僕の気持ちだけではどうにもならないので、時間をかけてプロデューサーさん、監督さん、脚本家さんたちと話し合い、本当に面白いものができるという展開が見つかれば、ぜひやりたいですね。

(取材・文=小田慶子)
アンチヒーロー

アンチヒーロー

長谷川博己が“アンチ”な弁護士役で、7年ぶりに日曜劇場主演を務める。日本の司法組織が舞台となる完全オリジナルストーリーで、新たなヒーローが常識を覆す逆転パラドックスエンターテインメント。長谷川演じる弁護士は、“殺人犯をも無罪にしてしまう”危険人物。「法律」というルールを利用し暗躍していく。

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