ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第120回ザテレビジョンドラマアカデミー賞主演女優賞 受賞インタビュー

撮影=阿部岳人

杉咲花

若葉(竜也)さんと向き合っているとミヤビとして勝手に心が反応しました

「アンメット ある脳外科医の日記」で「かわいらしさと強さが共存していた」「感情が伝わる一つ一つの演技、リアルな表情や目で語る芝居がすごかった」と絶賛され、主演女優賞を初めて受賞しました。

「アンメット」は、自分たち作り手が心から面白いと思えて、自分たち自身が心を震わせたものをお届けすることのできた素晴らしい環境だったと思います。評価を頂けたということは、それが見てくださる方々にちゃんと届いていたということなのかなと。放送中も、受けとめてくださった方々の温度が伝わってきていたので、素直にとてもうれしいです。
一度こういった経験をさせてもらったことで、少し自分の自信にもなりましたし、この先もこんな作品づくりに関わっていきたいと改めて姿勢を正すような、自分にとっての分岐点になりました。


プロデューサー、監督、脚本家だけでなく、杉咲さんや三瓶友治役の若葉竜也さんというキャストも参加してディスカッションを重ね、内容を作っていったということですが、今回そういった作り方になったのはなぜですか?

米田孝プロデューサーと初めてお会いしたとき、ご自身のパーソナルな経験も交えながら「人を救う医者も一人の人間であり、救われたいと思う瞬間があると思うんです」といった作品に対しての並々ならぬ熱烈な思いを伝えてくださいました。

「地上波ドラマの低迷を感じる中、自分はドラマ畑で育った人間だからこそ、ここで勝負がしたいんです」ともおっしゃる姿に、自分自身奮い立たされるようでした。私のように米田さんの気持ちにシンパシーを感じ、肩書きやキャリアを超えたところでものづくりをしていきたいと思っている方が集まったからこそ、みんなでアイデアを出し合うことがものづくりにとって健康的であるという認識が浸透した現場だったのだと思います。


台本の打ち合わせに俳優さんが入るのは、なかなか珍しいことですよね。

連続ドラマの過密なスケジュール感の中で、1話につき台本が2稿、3稿と上がってきて、改訂するたびに長いときは8時間ほどぐらいかけて打ち合わせを行いました。それはそれは骨の折れるような作業でしたが、本打ちを重ねるたびに間違いなく精度が上がっていくことを皆が実感して、士気が上がっていくことを感じて、本当にやりがいのある時間でした。ドラマってこんなふうに作れるんだ、って。画期的な日々でしたね。

はじめは米田さんと私からはじまり、Yuki Saito監督、若葉竜也さんも加わって、作品全体のことやそれぞれのシーンをどのように捉えていて、何を大切に描いていくべきか、共通言語を探しながらて擦り合わせていくにつれ、「こうしたらもっと面白くなるかも」という考えがそれぞれにあふれていきました。


杉咲さんから提案したのはどんなことでしたか?

例えば、ミヤビのことでいうと、食事をするときのひと口が大きいという設定や、寝るときは枕から頭がずり落ちていて、うつ伏せになってしまう、とかでしょうか(笑)。あとは、話す/聞くといった人とのコミュニケーションの積み重ねや対話の内容など、ミヤビは生きる上での根源的なことを真剣にやっている人だと思ったので、そういったところでミヤビという人間が印象的に感じられたらいいなと思っていました。


医者としてのシーンはどうでしたか?

ミヤビには記憶障害があり、今日のことを明日には忘れてしまう。そして、医者として職場に復帰したばかり…という要素があるけれど、何よりもまず、一人の人間として目の前にいる人とフェアに向き合い、同じ目線に立って話すことができたらいいなと思っていました。そんなミヤビだから、見える景色があるんですよね。

第2話で、サッカー強豪校のエース・亮介(島村龍乃介)が右脳を損傷し後遺症で試合に出られなくなり、それでもボールを蹴る練習をする亮介に対して、ミヤビは息も絶え絶えになりながら徹底的に向き合おうとする。どこまでも目の前にいる人を尊重するんですよね。そんな時間を島村くんにも実感してもらいたいとYuki監督や撮影のYohei Tateishiさんと話し合い、カメラは最大30分、回し続けることができるのですが、その日は2台のカメラを使用して時間いっぱいの長回しを試みました。


助演男優賞を若葉竜也さんが受賞しました。映画「市子」など、何度も共演していますが、今回はいかがでしたか。

今回ほど現場で濃密に交わる時間はなかったので、ちょっともうカルチャーショックというか、若葉さんはどの作品にもこれだけの熱量で向き合ってきたのかと。それは人とのコミュニケーションもそうなのですが、ひょうひょうとしているように見えて、彼の中にある情熱とか他者を思いやる気持ちとか、人としての力がちょっと異次元なんですよね。現場で何か引っかかりを抱えている人がいたら、それを取り除くために何時間でもとことん付き合って話を聞いてくれるような。

三瓶という役についても、たとえば肌の色味や身にまとうもの、そのシーンに至るまでに過ごしていた時間をどう解釈して、その時なぜそこにいるのかなど、彼ならではの視点から出てくるアイデアもとても新鮮で面白い。だから人に求められるし、愛されるんだということをつくづく感じました。


クランクアップの時に「これまでドラマ出演から離れてきた若葉さんが出演を決めてくれたからには、今までで一番輝いてほしいと思った」というコメントを出していましたが、若葉さんが「アンメット」で注目され、その願いはかなったのではないですか。

ご本人がどう感じているかは分かりませんが、私はそう感じています。三瓶先生の魅力に心から撃ち抜かれていました。
ある時、若葉さんが「これまで、自分があまりに共振してしまうような役柄を演じることは避けてきた」という話をしてくれたことがあったんです。けれど今回はやってみることにしたのだと。

9話のラストシーンを撮り終えたとき、現場の人々は皆、まるで憑き物が落ちたかのように万感の思いに包まれていたのですが、若葉さんだけは速やかに帰路につかれていました(笑)。丸裸の感情が放出された姿を全国放送されてしまうことが耐えられなかったそうです。それほどピュアな気持ちでこの仕事を続けてきた俳優さんがいるのか、と。そんなのもう、敵うはずがないですよね。

ご本人にとっても、きっと踏み入れたことのない領域に突入した瞬間があったのではないかなと私は感じています。もしそれが良き思い出になってくれているのだとしたら、こんなにうれしいことはないですね。


ミヤビと三瓶のシーンでは最終話、「ミヤビの病状が進み、自宅に戻り三瓶と2人きりで暮らして、嗚咽をこらえながら三瓶先生の画を描くシーンは名場面」という感想も寄せられました。

ミヤビの家で撮影していたある日の休憩中、ふと横を見ると窓のカーテンが夕日に照らされながら揺れていたんです。ああ、ミヤビはこういう時間を確かに過ごしたのだろうということを実感して、思わず動画を撮ってしまって。暖かくて、柔らかい風が吹く陽だまりのなかで、ミヤビと三瓶先生がかけがえのない時間を過ごせたのなら、なんてすてきだろうって思いました。

それを米田プロデューサーや脚本家の篠崎絵里子さん、Yuki監督と共有して、ミヤビが眠る三瓶先生に視線を向けながら手紙を書き残すシーンが生まれました。

全話を通してミヤビは三瓶に見守られてきたからこそ、ミヤビも三瓶のことを見つめる時間があったらいいのではないかと思ったんです。ミヤビはあまり気持ちの抑揚を他者に感じさせない人だけど、きっと誰も見ていないところで発露してしまう表情があるはずで。第5話の「術者の景色」など、忘れたくない瞬間をミヤビは絵に描いてきたので、例えば三瓶先生が眠っているさまを見た時、絵に残したいと思うんじゃないかなって。


ミヤビが日記に描くイラストは、実際に杉咲さんが描いたそうですが、これはわざと子供が描いた感じの絵に…?

いえいえ(笑)。真剣に描いています。原作漫画でも、ミヤビの描くイラストがはちゃめちゃという設定で。当初ドラマ版では演出部の方が描くことになっていたのですが、自分の絵の完成度は認識していたので、結構いい感じなんじゃないかなと思って、「私こういう絵を描くんですけど、どうですか」と提案してみたら、見事採用が決まりました(笑)。


あいみょんの主題歌「会いに行くのに」も、ドラマソング賞を受賞しました。

大好きな曲です。これだけ多くの方の耳に残り、愛される曲って、すごいですよね。撮影現場でも、いつも誰かが口ずさんでいました。最近もたまたま立ち寄ったドラッグストアで流れていて。買い終わっているのに、つい曲が終わるまで聴いてしまいました。


「(記憶がなくても)強い感情は忘れない」など、考えさせられるセリフが多いドラマでしたが、杉咲さんの人生のヒントになりそうなセリフはありましたか。

第5話で津幡看護師長(吉瀬美智子)がミヤビに言う「私たちは一人じゃない。だから、自分だけで完璧である必要はない」というセリフに、私自身も救われました。私はもともと気負いすぎてしまうところがあって。恥ずかしいですが、完璧主義者なんです。そんなにうまくいくわけがないことは分かっているはずなのに、一つでも失敗とか、想定から外れたことをやってしまうとすごく落ち込んでしまう。

だけど、自分の拙いところとか不得意なこととかを、そばにいる人たちはきっと理解してくれているし、他の人が困ったときは自分が力になれることだってあるはずで。だからこそ、拙さもそのまま、真剣に向き合ったらいい。時に自分の失敗も他者の失敗も受け入れながら、共に歩んでいければきっと大丈夫。

目まぐるしく日々を過ごしていると、そんな当たり前のことをつい忘れてしまうけれど、「アンメット」の現場では、そんな大切なことを胸に“全科専門医”をみんなで体現するような日々を過ごすことができました。

(取材・文=小田慶子)

アンメット ある脳外科医の日記

杉咲花演じる“記憶障害の脳外科医”川内ミヤビが、目の前の患者を全力で救い、自分自身も再生していく医療ヒューマンドラマ。過去2年間の記憶がなく、新しい記憶も1日たったら忘れてしまうミヤビは、医療行為ができない。そんな中、脳外科医・三瓶友治と出会い、再び脳外科医としての道を歩むことになる。

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