ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第120回ザテレビジョンドラマアカデミー賞助演男優賞 受賞インタビュー

(C)カンテレ

若葉竜也

撮影が進むにつれ、みんなが台本から飛び出そうとしていく動きが見えた

「アンメット ある脳外科医の日記」で助演男優賞を初受賞しました。
ありがとうございます。観てくれる人を信じて良かったです。


投票した人からは、アメリカ帰りの脳外科医である三瓶友治役について「しゃべり方からインパクトがあってクセになった」「ひげが気にならない新しいタイプのかっこいい男」という感想が寄せられました。

映画でもドラマでも、漫画の登場人物って僕、あんまりやったことなかったんですよね。初めてだったんじゃないかな。三瓶の髪型と目の下のクマぐらいは意識し、ひげは前の作品が終わってから、生やしっぱなしにしていたら、「その感じ良いね!」と監督やプロデューサーがなったので。でも、特に漫画に寄せたという意識もなく、そのぐらいです。やはり三瓶の外見に取りつかれたら本質が見えなくなるので、「実在するかもしれない生きている三瓶とは?」というところを意識はしました。

心理表現についても絶賛され、「変人でどこか抜けている面と、ミヤビ(杉咲花)をただ愛していて感情があふれてしまう面のギャップが、涙なしでは見られないくらい素晴らしかった」という意見があります。

表層的に“変人で冷たそうだけど愛があるお医者さん”みたいなキャラクターを作っていくのは、正直、簡単なんですよね。ただの「キャラクター」であればいいから。誰でもできちゃうので、それはやりたくないなって。それよりその瞬間、瞬間で匂い立つものや、三瓶が誰を見つめていて、何を感じ取っているかということ、三瓶の孤独や呪いを探るということだと思いました。架空の物語のキャラクターではなく、呼吸をしている生身の人間という事が大切でした。だからこそ原作を常に読んでいましたね。


やはり第9話のラスト、病院で三瓶とミヤビが静かに語り合い、抱き締め合うシーンが圧巻でした。

あのシーンには、もちろん台本があるんですけど、米田孝プロデューサーに、「ここまで三瓶として積み重ねてきたものがあるから、シーンに必要な情報だけをもらって三瓶としてしゃべりたいです」と話しました。「面白くなりそう!」と米田さんは乗ってくれて…。ただそういったライブのような演技はおそらく1回しかできないから、1回撮って駄目だったら台本通りに戻すということにし、杉咲さんにもそれを伝えました。もし1回目が失敗したら、それはもう幻のもので、テイク2はなしということで、カメラを回してもらいました。


では、あのシーンはファーストテークだったわけですか?

ファーストテークです。だから、チャレンジですよね。監督、カメラマンはもちろん、僕もどういう感情の動きになるかも分からないし、声色がどう変わるかも何を話すかも分からない、みんな不安の中、本番に臨みました。でも、挑戦した意味がすごくあるシーンになった。

「台本からはみ出す」とは言ったけれど、脚本の篠﨑絵里子さんは、僕らに任せてくれている部分が大きかったと思うんですよ。だから、その信用を裏切りたくないなとも思いました。米田さんにも篠﨑さんにも「あなたたちが積み上げてきたものを見せて」と言われているような気がして、その緊張感の中で生まれた場面です。


三瓶からミヤビの方に頭を預けるような抱き合い方も印象的でした。

台本には「三瓶がミヤビを抱き締める」と書いてあったけれど、僕はミヤビから抱き締められた方がいいんじゃないかなと思った。でも、実際にやってみたら、どちらから抱き締めるっていうことではないんだな、と分かったんですよね。

ミヤビと三瓶は、どちらかが崩れ落ちてしまいそうになった時にもう一方が支えるという関係性をずっとしてきたから、抱き合うのではなく、人として支え合うという感覚が近い。杉咲さんがあの場面で言った「三瓶先生は私のことも灯してくれました」というセリフを受けてそう思って、だから、三瓶が崩れてみようと思ってパタっといってみました。ただ極端な話、恋愛とか友情とか関係性はどうでもいいなって。人間と人間が支え合う、という。


ミヤビが寝ている病院のベッドで終わるラストシーンはどうでしたか。

ラストシーンは、杉咲さんと話して、無理に感情をあふれさせなくてもいいんじゃないのとは言っていたけれど、カメラテストの段階で感情が高まっているミヤビを見て、監督に「杉咲さんから撮ってください」と言いました。本当は三瓶の表情から撮る予定だったんですけど、それも9話のラストと同じで、杉咲花という女優がミヤビという人物を11話分積み重ねてきた瞬間が一番正しいわけなので、その瞬間を逃したくなかったんです。


最終話で「(グミをかむと)幸せホルモンの分泌量が増えて幸福度が上がります」という会話を過去にミヤビからしていたことが分かり、「第1話から伏線が張られ、若葉さんはそれを踏まえて演技を構築していたのか」という感想もありました。

それは実は後付けで、脚本の会議で僕が提案したんです。第1話で三瓶がミヤビと再会したときにグミの話をして、そのときは変な三瓶を表現する“面白いやりとり”という位置づけだったけれど、僕はずっと「なぜ三瓶はグミの話をしたのか」と考えていたんですよね。

その理由は特に描かれなかったので、これは自分で「過去にミヤビに教わった」という裏設定を作ってセリフを言うしかないなと…。それで、最終話の回想シーンで「アンメットとは…」と大きい話をしているときに、あえてグミという“ちっちゃい”話が入ったらいいなと思いました。本当にこじんまりとした、2人だけの世界の話があればいいと。


若葉さんは映画ファンにはよく知られている存在でしたが、プライム帯の連続ドラマである「アンメット」で準主役を演じ、注目度が急上昇。映画ファンは「世の中に若葉竜也が見つかってしまった」と騒いでいました。

見つかったというか…僕は35年間生きてきてたんですけどね(笑)。ブレークだとか著名になることに対してメリットをほとんど見いだせず、デメリットの方が圧倒的に多いじゃんと思ってるんで…。はっきり言ってブレークというものに1ミリも興味がないです。これでメジャーな存在になるかというと、そうではないでしょう。この後の出演作も、これまでと変わらずに映画が続きます。


では、このドラマに出て何か得たものはありますか。

僕は3カ月で成長できるような器の人間じゃないので、何かの作品をやって成長したとか、これを得ましたみたいなことって1回もないんですよね。そんな器があったらきっともっと立派な人間ですね。もし何かが変わったとしたら「アンメット」のときだったねと思うのは、10年後くらいかなと思うんですよ。正確に言うと、今は分からないです。


でも、これだけ演技が評価されて、何かしらの手応えはあったのではないですか?

いえ、無いです。今までも手応えなんて感じた事ないです。感じたとしてもそんな感覚信用しないですね。なんなら今やったらもっと精度は高くなると思ってます。手応えではないですけど、アンメットのように観客を信じて妥協をしない作り方がドラマでもベーシックになったらいいなと思います。

ドラマの現場ではこのセリフは変だよねとかこんな動き変だよねと感じることがあっても、「ドラマだから」みたいな割り切り方をしなければいけない。そういった話をよく聞くので、「アンメット」に出演を決めるときは、米田さんに妥協しないでものづくりをしてほしいという話もさせてもらったし、1話はこう、2話は…というより、全体を通して550分の作品を作っているという意識でした。


全11話トータル550分って、映画なら4本分以上ですから、やっぱり大変ですよね。

大変でした。脚本の打ち合わせに参加して、現場でも時間をかけてとやっていると。どうしても睡眠時間が削られる。でも、三瓶はもともと顔色が良くないので、まあいっかみたいな(笑)。


杉咲さんの他にも、井浦新さん、千葉雄大さん、岡山天音さんをはじめとする共演者の皆さんが印象に残る演技をしていました。

撮影が進むにつれ、みんながそれぞれ台本に書かれたことから飛び出そうとしていく動きが見えた。それが一番うれしかったですね。僕たちの仕事は、プロデューサー、監督、脚本家が想定している通りに動くことではなく、その枠組みからはみ出すこと。それをこの作品で実現したかったし、みんながそうなるといいなと思っていたので…。

僕はこう思う、私はこう思うという意見がいっぱい飛び交った中から監督が取捨選択し、誰も予想しなかったところに扉を見つけてみんなで出ていく。そんな作業になっていたことがすごくすてきだったし、それはもう先輩後輩関係なく、ものをつくるチームとして、すごく健康的だったなと思いますね。本当に、これがドラマ制作のスタンダードになればいいなと願っています。

(取材・文=小田慶子)

アンメット ある脳外科医の日記

杉咲花演じる“記憶障害の脳外科医”川内ミヤビが、目の前の患者を全力で救い、自分自身も再生していく医療ヒューマンドラマ。過去2年間の記憶がなく、新しい記憶も1日たったら忘れてしまうミヤビは、医療行為ができない。そんな中、脳外科医・三瓶友治と出会い、再び脳外科医としての道を歩むことになる。

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