ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第120回ザテレビジョンドラマアカデミー賞脚本賞 受賞インタビュー

(C)カンテレ

篠﨑絵里子

杉咲(花)さんの演技を見たときに、それまで想像でしかなかったミヤビが目の前に現れました

「アンメット ある脳外科医の日記」で脚本賞を初受賞されました。ぜひ感想をお聞かせください。

ありがとうございます。この作品は3年前に、米田孝プロデューサーから原作漫画(原作:子鹿ゆずる/漫画:大槻閑人)をドラマ化したいという相談を受けました。原作を読ませていただいて、この作品でしか描けないような明確なテーマに共感し、ぜひやりたいと思いました。それが2021年の11月ごろ。そこからドラマ化を許諾していただくために1話の詳細なプロットや全体の流れを作りました。
ドラマ化が決まってからは、キャストの杉咲花さん、若葉竜也さんからも脚本への意見を頂いて、監督やプロデューサーと納得いくまで打ち合わせを重ねながら、1話ごとに決定稿にするまで何度も改訂しています。他の演者さんもアイデアをたくさん出してくれていますし、演出の監督さんたちも現場で最終的に「アンメット」の世界観を作って、台本をブラッシュアップしてくれました。みんなで作った台本なので、脚本賞を頂けると聞いた時はうれしいと同時に「いいのかな」と思ったのが正直な気持ちです。取り消しになっちゃうかな(笑)。


「原作を丁寧に脚色したところに好感が持てた」「漫画のドラマ化の成功例」という意見が寄せられましたが、うまくいった理由はどこにあったと思いますか。

今回、原作の子鹿先生、漫画の大槻先生もお忙しい中、とても熱心に協力してくださって、直接やり取りをさせていただけたのは大きかったと思います。脚本家と原作者の間に人が入れば、どうしてもニュアンスがずれてしまったりすることもあるので、対面して、作品に込めた思いを教えていただけたのもありがたかったです。

子鹿先生にお会いした時に、家族のことでつらい過去を抱える三瓶と記憶障害になったミヤビの物語の根幹にある思いを伺うことができました。その言葉をそのまま台本にするわけではないですが、その思いを心に留めながら書くのかどうかで、全然違うなとは思います。


原作者が作品に込めた思いというのは、どういうことなのでしょうか。

三瓶とミヤビがろうそくの光を前に語るシーンで描かれていますが、「光を当てると影ができる。社会をくまなく照らす光を見つけたい」という三瓶の強い思いに対して「光は自分の中にあればいい」というミヤビの答え。ミヤビや三瓶のお兄さんのように障害がある人だけではなく、生きづらいなと感じながら生きている全ての人たちが、自分の中に希望を持って生きてほしい。そんな願いが、子鹿先生にお会いして改めて伝わってきたので、ここは本当に、大切に描いていきたいなと思いました。

最終話のラストも、原作にある場面で、原作が最終回を迎える前に子鹿先生から伺っていました。三瓶とミヤビが交わす言葉を聞いて、もうラストシーンが見えたなと…。ドラマの展開の縦線は、最初からそこを目指して作りました。


逆にドラマ化で苦労したのはどんな点ですか。

構成が鍵でしたね。今お話したようなテーマがはっきりしているだけに、このテーマをどれだけ効果的に見せられるか。そのために全体を構成しました。

原作は盛りだくさんで要素が多く、さまざまな症状の患者さんも出てくるけれど、それを11話で収めなきゃいけないわけですから、苦労はしました。幸い、連続ドラマとしては脚本を仕上げるまでの期間が長かったので、時間をかけて練ることができたのが大きかったです。

第9話でミヤビの記憶障害に関連するさまざまな謎が解け、あとはミヤビをどう助けるか、どう生きていくかという話になっていくので、そこを区切りとして考えていました。


主演女優賞を受賞した杉咲花さんの演技はいかがでしたか。

杉咲さんとは初めてご一緒しましたが、天才でした。ミヤビを描くに当たっては、1日で記憶がリセットされるという設定自体が特殊なので、私自身、そこを自分の中に落とし込むのに苦慮しました。

記憶障害という現象自体は分かる、でも、ミヤビはどんな気持ちで毎朝起きて、昨日の記憶がない状態で日記を読むんだろう。その気持ちを抱えたまま職場の病院に行って、1日でその状況に慣れてもまた翌日には戻る。この壮絶な繰り返しをしているわけだから、本当にセリフとかも悩みましたけど、杉咲さんの演技を見たときに、それまで想像でしかなかったミヤビが目の前に現れ、そこに生きていることに感動し、とても説得力を感じました。それで腹落ちして、ミヤビという人物について、リアルに捉えられるようになりました。


たしかに、ミヤビの境遇はどう考えても大変で、でも病院の同僚たちが彼女を特別扱いせず、温かく見守っているのが印象的でした。

そうですね。ミヤビを悲劇の主人公として描きたくないというのは杉咲さんとも最初から共有していて、そこはすごく意識しました。だから周囲も必要以上に暗くならない。医者たちが毎晩のように「たかみ」で飲むとか本当はあり得ないと思うんですけど、他愛のない会話の積み重ねが、全体の明るい世界観を作っていったんじゃないかなと思います。


話題になった第9話のラスト、ミヤビと三瓶が椅子に座ったまま抱き合う場面は、杉咲さんと若葉さんが台本をかなりふくらませて自由に演じたということですが、どう見ましたか。

あのシーンは二人のリアルな会話が話題になったと思うんですが、まず、三瓶がどんな子供だったのかを私が書き、それを基にして、二人が自由に雑談するという形をとりました。「アリを見ていた」とかあの辺りです。台本には途中で一行『ミヤビと三瓶が、子供の頃の話をする』と書いてあります。

そういう風にやりたいと聞いたとき、もう9話まで撮影が進み、杉咲さんと若葉さんは完全にミヤビと三瓶本人になっていたので、信頼してお任せしました。結果、あの素晴らしいシーンが生まれました。あのリアルな会話があったからこそ、後半の三瓶の兄についての会話が胸に迫ってくる。

オンエアを見たときの感覚は、多分視聴者の皆さんと同じで、「私たちは何を見ているんだろう」という感想が多かったと思うんですけど、私も、ドラマというより、2人の日常を目撃している気がしました。だって、あんな抱き締め方あります? 奇跡的なシーンで、ドキュメンタリーのように今ここで起こっていることを見ているようでしたね。


そんなふうに視聴者の反応も、受け取っていたんですね。

はい。SNSなどで感想を読むのが楽しみでしたね。とても深く考えてくださる方が多く、自分ごとのように受け取ってくれていると感じました。それはこのドラマがセリフをギリギリまで削りながら作ったというのもあるのかなと。「このシーンは説明しなきゃ意味が分からないかな」と思っても、勇気を持ってポンと投げてみる。そうすると本当に、見た人が考えて、それぞれの状況に応じて何か感じてくれていた。こういうドラマは初めてでしたね。


篠﨑さんはオリジナルでも朝ドラの「まれ」(2015年NHK総合ほか)などを書いてきました。その「まれ」でも、「アンメット」も親子の関係性を描くことにこだわりを感じました。

そうですね。無意識なんですけど、やっぱり家族や親子関係っていうのは、そこに人間関係の原点がある気がします。実は私私自身、小さい頃に両親が離婚し、それ以来、父親に一度も会ったことがないんですよ。父はもう亡くなっているんですが…。だから、家に父親がいるっていう感覚が分からなくて、作品の中で常に探求している感じですね。もし、生前の父に会えていたら、または全然違うお父さんがいたらどうだったんだろうとか、そういう思いって、何歳になっても抜けない。その答えを知りたくて、家族の在り様にこだわってしまうのかもしれません。


「アンメット」は高く評価されましたが、脚本家として得たものはありますか。

デビューして20年以上経ちますけど、改めてセリフの大切さというものを感じ、初心に立ち返った気がします。実は、昔書いた台本を出してきて添削してみたんですけど、今、見ると「このセリフ、いらなかった」と思うところも多くて。やはり説明して安心してしまうこともあるので、極限まで吟味して、勇気を持って言葉を手放すことも必要だなと思いました。説明し過ぎず、誘導せず、視聴者に委ねることの大切さを改めて学びました。

「アンメット」は夜10時からのプライム帯で、皆さんが忙しい時間帯でしたが、誠実に作れば、集中して真剣に見てもらうこともできるという、自信になりました。これからも視聴者の皆さまを信じて、ドラマを作っていこうと思います。ありがとうございました。

(取材・文=小田慶子)

アンメット ある脳外科医の日記

杉咲花演じる“記憶障害の脳外科医”川内ミヤビが、目の前の患者を全力で救い、自分自身も再生していく医療ヒューマンドラマ。過去2年間の記憶がなく、新しい記憶も1日たったら忘れてしまうミヤビは、医療行為ができない。そんな中、脳外科医・三瓶友治と出会い、再び脳外科医としての道を歩むことになる。

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