ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第120回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞 受賞インタビュー

(C)カンテレ

Yuki Saito、本橋圭太、 日髙貴士

いつか再会できる日を楽しみにしていただきたい(Yuki Saito監督)

「アンメット ある脳外科医の日記」のYuki Saito監督(第1、2、5、7、10、11話演出)、本橋圭太監督(第3、4、6、8話)、日髙貴士監督(第9話)の3人が監督賞を受賞しました。今回はYuki監督と日髙監督にインタビューを受けていただきます。

Yuki:監督賞をありがとうございます。「アンメット」は、今まで見たことないドラマを作るため、選択肢がある場合はあえて“挑戦する方”を選ぼうという考えで、キャストとスタッフが一致団結して作ったものなので、ドラマを見た人が僕らの挑戦を受け止めてくれたのかなと思うと、とてもうれしい気持ちです。
日髙:そうですね。今はテレビドラマの見られ方もいろいろ変わってきている時代なので、こうして賞という結果がついてくるというのは、僕たちスタッフ、キャストもうれしいことですし、僕自身も監督賞をもらったのは初めてなので、すごく励みになります。


「映画のように美しい質感の映像」「主人公たちのアップが多く、俳優を信頼して委ねる演出が良かった」という声が寄せられていますが。映像は何か特別な機材を使ったのでしょうか。

Yuki:そうですね。今回は「アレクサ35」というカメラにシネレンズを付けて4K画質で撮影しました。カメラが複数台あるとアングルが緩くなってしまうので、今回は、ほとんどのシーンをアレクサ35の1台で撮りました。なので1カットにかける時間としては通常の1.5倍ぐらいかかりましたね。

顔のアップが多かったのは、杉咲(花)さんや若葉(竜也)くんのお芝居がアップにふさわしい素晴らしいものだったから。それが前提としてありつつ、段取り(動きを確認するリハーサル)後にそのシーンをどうやって届けるか、どこを切り取るのが一番いいのかと考えたときに、この作品では極力、説明セリフの数を削ったので、感情の機微をくみ取ってもらうためにも、アップが多くなっていきました。


第9話のラスト、病院の医局でミヤビと三瓶が2人きりで話し、再会後、初めて抱き締め合うシーンが感動的で、「2人が実在して生きているように見えた」と評判になりました。

日髙:第9話は僕の演出回でした。台本を作っている段階で、ここは自由に演じられないかという話は出ていたんですが、若葉くんが言うには「本番は1回しかできない」と。だいぶ長いシーンですからね。さすがにここでは、杉咲さんを撮るカメラと若葉くんを撮るカメラ、2台使いました。

現場では若葉くんが「段取りやりましょうか」と言うので、「やってくれるんだ!」と(笑)。それなら、動きも見られると思ったら、わりとすぐ途中で「こんな感じですかね」で終わってしまった。「え、ここで?その先が知りたい!」みたいな。

Yuki:ははは(笑)。伝えるべき情報が詰まっているシーンだし、緊張しますよね。

日髙:一発勝負になるからにはバチッと収めなきゃいけないというプレッシャーもあり…。撮影と音声のスタッフに集まってもらって、「不確定要素しかないけど、やるしかないんだ。腹を決めましょう」と説明して本番に。カメラマンの心理としては、アップにしていきたいなというところを、ツーショットの引きでじっと我慢したんですよ。

そして、若葉くんが三瓶のお兄さんの話をしながら、ちょっと感極まって、顔をそらしたのを見た瞬間、「勝った!」って思いましたね。段取りをしなかったから、その分、すごく生々しくてリアルで、もうこれはもらったと(笑)。

Yuki:本当にドキュメンタリーのよう。一連で撮影して「じゃあ、次はここから」とシーンを区切っていないから、臨場感がひしひしと伝わってきました。

日髙:だから、リハーサルはもちろん、段取りも最後までやらなくて良かったのかも…。

Yuki:そうかもしれない。続く第10話と11話(最終話)は僕の演出でしたが、9話でドンと盛り上げてくれる“最強のつなぎ”というか、プレッシャーを感じるくらいのすごいシーンができてきたので、それにいい意味で触発されました。


Yuki監督の演出回でもそういったドキュメンタリーのような撮り方はしましたか?

Yuki:最終話の前半はミヤビが退院して自宅で三瓶と過ごす時間。そこも杉咲さんと若葉さんの信頼関係がないとできない撮影でした。

何回かドキュメント方式の長回しをしましたが、段取りのときは代役を立て、実際に杉咲さんと若葉さんが会うのは本番だけに…。杉咲さんもずっと隠れていて、本番になったらスッとリビングに入って生のアクションをする。若葉さんが寝ているのをスケッチする場面もそうですし、ミヤビがついに目覚めなくなって、若葉くんが手紙と日記を読むところも、実は手紙をバッグの内側に入れたことを若葉くんには伝えていなかったんです。

日髙:それも通常の撮影ではありえないことですね。

Yuki:「本番で手紙を発見できなかったらどうする?さすがに位置ぐらいは言った方がいいんじゃないか」と思ったんですけど、花ちゃんが「三瓶先生は絶対に気づきます。ミヤビが保険証を入れたと言ったバッグを開けます」と確信していたので、「じゃあ、信じよう!」と、知らせないまま本番でドキュメントしていったんですけど、若葉くんはちゃんと見つけていましたからね。

そこからの、あの涙、涙のシーンで…うそが全くなかったです。2人の信頼関係があってこそ撮れた場面で、演出していても、どんなお芝居で来るのかなとワクワクしていました。


杉咲さんと若葉さんの強い信頼関係が映像に記録され、それを放送で見た視聴者が感動したわけですね。

日髙:僕は第9話以外も助監督として現場にいたんですが、花ちゃんはとても人見知りをする人ですけど、今回は相手が若葉くんだから信頼してお芝居ができているんだなというのは思ったし、映画「市子」など、これまでも共演してきた2人だからこそ、今回これだけの演技ができたんだろうと思いましたね。

Yuki:共演4作目になるわけで、今までの信頼関係プラス、このタイミングだったからこそ撮れた作品でしょうね。若葉くんもよくテレビドラマの出演を引き受けてくれたよねと思います。

やはり地上波のドラマは幅広い層の人に無料で見られるということが大きく、これで若葉くんの魅力に気づいた人が、今後、若葉くんが出演する映画などの有料コンテンツを見るということも増えると思います。既に若葉くんの主演映画「街の上で」が再上映されたように、そうして客層が広がっていくのは、すごくいいことだと思います。


若葉さんと言えば「街の上で」の今どきのサブカル青年といったイメージがあり、三瓶のように天才外科医役で、しかも一途に女性に愛情を向ける男性を演じていたのは、新鮮でした。こちらの方が素に近いんですね。

Yuki:若葉くんは、優しくて愛の人。本当に男として、かっこいいです。脳外科医を演じている若葉くんがかっこいい存在としてそこにいるから、純粋にかっこよく撮りたくなりました。花ちゃんもそうですが、純粋に美しいから撮りたい。映像としてもちゃんと映えるように撮りたいって素直に思えるのは、演出としてはうれしいことでした。

日髙:(津幡玲子役の)吉瀬美智子さんもおっしゃっていたんですけど、若葉くんという映画をメインに活躍しているある意味異質な存在がいたから、自分もいい意味でプレッシャーを感じ、彼がドラマ界をちょっと変えてくれた、と。キャリアのある吉瀬さんでもそういう気持ちになるんだっていうのは、びっくりしましたが、その通りだと思います。


ミヤビは2年分の記憶がない状態で昨日のことも忘れてしまうわけですが、自分が日記に書いていたことを考えるときに、突然、白や黒の何もない空間になっていたのも印象的でした。

Yuki:まず、よくある過去のダイジェスト映像のような回想シーンにはしたくないと思いました。ミヤビは昨日の自分が日記に書いた言葉を積み上げ、そこから自分の頭の中で想像していく。それを「想像世界」と僕らは呼んでいたんですけど、その世界を印象的にして一つの特徴にしようと。

あとは、異質な世界観にしたかったので、黒一色や白一色の空間にして、机とか日記とか手術の器具とか手に触れる範囲のものだけを置きました。例えば、片方を見ると三瓶がいて、その反対を見ると大迫(井浦新)がいるというシーンは、実際には2人は同じ場にいなかったけれど、想像だからあり得るわけで、そうして両者から言われたことをミヤビが考えて揺れ動く心理を表現しました。


「アンメット」で高く評価されたことは、今後のお仕事にどう影響しそうですか。

Yuki:最初に言ったように、今回、僕らのチャレンジが認めてもらえたと思いますが、「『アンメット』だけが奇跡的な組み合わせでできたんだよね」と捉えてしまうと、ここで止まってしまうので、次からのいろんなハードルが高くなるかもしれないけど、一度できたことは継続し、これを基準にして次の現場でも挑戦を続けたいなと思っています。

日髙:やっぱり地上波のテレビはいろんな制約があるんですけど、今回は「こういうこともできるんだね」という新しいやり方を提示できたのではないかと思います。僕はこの業界で仕事をして長いですが、新しい選択肢が見えたというか、キャストの皆さんやYuki監督に「学ばせていただきました」という思いです。

Yuki:経験豊富な日髙さんにそう言ってもらえると、うれしいですね。

クランクアップのときにも言ったんですけど、この作品を多くの人が見てくれて、「アンメット・ロス」を感じているので、できれば最終回の続きを描きたい。原作漫画もあって、キャストもみんな忙しいし、簡単ではないかもしれないけれど…。見てくれた人たちも、もはや同じチームだと思うので、みんなで「物語の続きを見られたら」という思いを共有していきたいですね。いつか再会できる日を楽しみにしていただきたいと思います。

(取材・文=小田慶子)

アンメット ある脳外科医の日記

杉咲花演じる“記憶障害の脳外科医”川内ミヤビが、目の前の患者を全力で救い、自分自身も再生していく医療ヒューマンドラマ。過去2年間の記憶がなく、新しい記憶も1日たったら忘れてしまうミヤビは、医療行為ができない。そんな中、脳外科医・三瓶友治と出会い、再び脳外科医としての道を歩むことになる。

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